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2019.2.13

小西未来の『誰でもできる!ハリウッド式ストーリーテリング術』 第1回

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当サイトの連載「小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ」で、ハリウッドの最新情報を伝えてくださっている小西未来さんが、今度は映画作りの要となる“ストーリーテリング術”について教えてくださることになりました。
小西さんがハリウッドで何年も何年もかけて独自に学んだノウハウを、映画作りに興味のある全ての若者に向けてレクチャーする、贅沢なコラム!
その名も「誰でもできる!ハリウッド式ストーリーテリング術」、始まります!

 

 

はじめに

 

10代の若者に「どうやったら映画監督になれますか?」と質問されたと仮定しよう。
若い頃の夢を諦めるタイミングを失ったまま、人生の中間地点を折り返してしまった自分にその質問に答える資格があるかは分からない。
でも、いま10代からやりなおすことができるとすれば、やるべきことは分かっている。

 

スマートフォンで撮影して、製作費1万円以内の短編映画をコンスタントに作り、YouTubeで発表する。
拍子抜けするくらい単純なアドバイスだろうけれど、過去数十年程このテーマを模索してきた自分にとって、現時点での最適解だと信じている。

 

かつてはたった数分の映画を作ろうにも、機材や消耗品への出費が少なからず必要だった。裕福な家庭に生まれたり、子供の夢の実現に積極的な親に恵まれなければ、アルバイトで製作費を貯めるしかない。
でも、10代の頃は――のちに、いくつになっても変わらないと悟ることになるのだけれど――、学業や部活や恋愛などでなにかと忙しい。そんな時期に友達が青春を謳歌しているのを見ると、時間と労力を注いで稼いだ貴重な軍資金を、どんな代物になるかも分からない自主映画に費やすのが正しい選択なのだろうかという疑念がわいてくる。
少なくとも、自分自身の可能性にまったく自信を持てなかった僕はそうだった。かつては夢の実現のために一歩を踏み出す金銭的ハードルが、とても高かったのだ。

 

でも、いまなら、スマホさえ持っていれば、ほとんどの機材は揃ったも同然だ。実際、スティーブン・ソダーバーグ監督も全編iPhoneで撮影した長編映画を発表している(※1)。もちろん、映画らしく撮影したり編集するためにはそれなりの知識や技術が必要になるけれど、いまならほとんどのことはインターネットを通じて勉強できる(※2)。アルバイトに励んで短編映画を作り、その後、わざわざ海外の大学の映画学部に留学した自分からすれば、悔しいほど羨ましい。

 

 

製作費を1万円と設定したのは、この程度の負担ならばコンスタントに映画を作り続けられるだろうと考えたからだ。消耗品や衣装に使ってもいいし、映画作りを手伝ってくれる友達とのささやかな宴会を開くのも楽しそうだ。
さらに、定められた条件のなかで映画を作るのは、立派なトレーニングになる。

 

たとえば、「アベンジャーズ」シリーズで知られるマーベル・スタジオは1作あたりに2億ドル前後という途方もない製作費を投じている。
実は、これらの作品で監督を務めているのは、インディペンデント出身のフィルムメーカーたちだ(※3)。低予算映画を作っていた彼らはいきなり超大作に抜擢されたわけだから、潤沢な予算を得て、経済的にもクリエイティブ面でも余裕を持って映画作りを満喫していると想像するかもしれない。

でも、本人たちは、「とんでもない!」と否定する。作品の規模が大きくなれば、それだけスタッフの数や撮影日数が増えるし、製作プロセスも複雑化する。人気スターを起用すれば、ギャラをごっそりもっていかれるし、スケジュール調整も煩雑になっていく。
彼らに話を聞く限り、たとえ2億ドルの製作費があっても、映画監督が自分の理想をそのまま実現するのは不可能らしい。インディペンデント映画でも、超大作映画でも、金に余裕があることなんてないと彼らは口を揃える。

 

クリエイティブの仕事において、制限があるのは、必ずしも悪いことじゃない。必要は発明の母という言葉があるけれど、自分の理想が叶わない状況にぶつかってこそ、より良いアイデアが生まれることがある。
たとえば、「レイダース 失われたアーク」において、刀をもった強面の男をインディがあっけなく銃で退治する場面も、撮影当日ハリソン・フォードの体調が悪かったからこそ、即興的に考え出されたものだった。

 

「スマホ撮影&予算1万円」という条件を課したのは、10代の身の丈にあった映画製作方法であることに加えて、ひとつのアイデアに固執せず、状況に合わせて改善策を練る訓練になるからだ。
もちろん、これでアクション大作やファンタジー映画はおそらくできない。でも、やりたいと思っていた作品に、「スマホ撮影&予算1万円」という条件を当てはめると、思ってもいなかったアイデアが出てくる可能性がある。
かつて、ホラー映画でファウンド・フッテージという手法(※4)を用いた数々のヒットが生まれたように、あなたは新たな金鉱を掘り当てるかもしれない。

 

 

さて、自主映画を完成させたら、YouTubeなどの動画サイトでさっさと発表しよう。映画賞に出品するのが通常ルートだけれど、出品の受付期間に合わないかもしれないし、審査を待っている時間がもったいない。

YouTubeでコンスタントに短編を発表する手法は、かつて僕が留学した南カリフォルニア大学(USC)での経験をもとにしている。USCの映画学部では、1年目の1学期に5本もの短編映画を作る。3週間に1本完成させるというかなりのハイペースで、仕上がった作品をみんなで批評しあっていく。

思い返してみれば、この授業は僕がこれまでの人生で受けた授業のなかで、もっとも厳しく、同時に、もっとも有益なものだった。
欧米人は日本人よりも感情表現が豊かだから、自分の作った映画がどう評価されているのか、分かりやすい。口では褒めてくれても、鑑賞時の態度を見ていれば、本音がわかる。
そして、僕は彼らの反応にものすごく戸惑った。サプライズとして用意した展開で欠伸をされてしまったり、感動させるはずの場面で笑いが起きたりしたのだ。

幸いなことに、これは僕だけが経験した現象ではなかった。
同級生が作った映画も同様に見ていくのだが、監督を手がけたクラスメートが解説する意図と、その映画を観て僕が抱いた印象が乖離していることが少なくなかった。果たして同じ映画のことを語っているのだろうか、と疑問に思ったこともたびたびだった。

 

この経験を通じて学んだのは、初心者が作った映画は、作り手の意図が伝わりづらいということだ。
これは、映画に限らず芸術全般に言えるんじゃないだろうかと想像する。なにかを生み出そうとするとき、作り手はありったけの情熱を作品に注ぎ込むことになる。自分だけの世界に籠もり、コツコツと作り上げるわけだが、そのまま他者を介在させずに発表されたモノは、得てして個性的になる。基本を知らなかったり、技術を伴わないことが、かえって高評価につながることもある。

だが、これではハリウッドで通用しない。悲しいかな、映画ビジネスに関わる多くの人にとって、映画は芸術ではなく商品だ(※5)。この世知辛い世界でクリエイターとして生計を立てるためには、独りよがりではやっていけない。なにしろ自分が手がけた作品がきちんと利益を生み出さないと、次の仕事探しが困難になってしまう。
求められる映画をきちんと提供できるのが第一条件であり、そのためには、自分の思い通りに観客を導くことができなければいけない。

僕はUSCの最初の1学期のあいだ、試行錯誤を繰り返した。作ってみたい映画案を思いついたら、そのアイデアをどうすれば他人にわかりやすく、かつ、退屈させずに伝えられるか、と知恵を絞る。その後、撮影と編集を経て、映画は完成。作品発表の日は、とくにみんなの反応に注目した。
はっきり言って最初はさんざんな結果だったけれど、そのフィードバックをもとに、どうやったら修正できるだろうかと考えた。他の生徒が作った映画がヒントとなる場合もあるし、お気に入りの映画を見直すことで改善点を発見することもあった。

当時はまだ英語環境に慣れていなかったし、短いスパンでつぎつぎと映画を作らなくてはならないので、映画の質が劇的に向上したとは言いがたい。でも、このプロセスを経て、自分の意図とクラスメートの理解とのあいだの溝は確実に埋まっていった。まったくの無意識ながら、計画→実行→評価→改善という、いわゆるPDCAサイクルを導入していたおかげだ。

 

現在では同じことがYouTubeで実現可能だ。短編映画をアップロードし、そこでのフィードバックを次の映画作りに役立てていけばいい。チャンネル登録者数が少なければ、ほとんどコメントをくれる人はいないかもしれない。でも、再生回数や評価でだいたいの反応がわかるし、アナリティクスの視聴者維持率などは大きな参考となるはずだ。

YouTubeで作品を発表する利点はもうひとつある。発表した映画が一定のクオリティに達していれば、仕事が舞い込む可能性が十分にあることだ。
つまり、YouTubeはトレーニングの場であるのと同時に、プロモーションツールでもあるのだ。

 

 

さて、前置きが長くなったが、実はここからが本題。

 

映画製作を取り巻く環境が変化しても、変わらないことがひとつある。
それは、駆け出しの映画監督は、自分で物語を生み出さなくてはいけない、という点だ。
ストーリー作りは他人に任せて、自分は映像表現に専念したいと思っても、無名の若者のために脚本を書いてくれる人はたぶんいない。また、好きな漫画や小説を映画化したいと思っても、よほどのコネがなければ権利を譲ってもらうことはできないだろう。

 

ここであなたは大きな疑問を抱く。果たして自分にオリジナルの物語が生み出せるのだろうか、と。
おそらくあなたはこれまでにたくさんの物語を消費してきた。幼いころに読み聞かせてもらった絵本に始まり、漫画、アニメ、テレビドラマ、ゲーム、小説、映画などなど。
実際、世の中は物語に満ちている。だけど、消費者に対して、生産者の割合は圧倒的に少ない。正確な数は分からないけれど、身の回りに、物語を作ることを生業にしている人はおそらくいないんじゃないだろうか。
だから、あなたは不安になる。やったことのないことに不安や恐怖を覚えるのはまっとうな生理反応である。

さらに、クリエイターたちの言葉があなたを惑わせる。雑誌やテレビのインタビューで、作家やクリエイターが人気作品の生まれた経緯を語るのを見たことがあるだろう。彼らが用いる言葉は「ヒラメキ」だったり、「ひょんなきっかけ」だったり、得てしてひどくあいまいだ。あたかも雷に打たれたかのように説明するので、こちらはますます心配になる。物語を生み出すのは、一部の選ばれた人にだけ許された行為なのではないだろうか、と。

 

実際、かつての僕はそうだった。
でも、いまは違う。物語作りは一部の人だけに許された特殊技能なんかじゃない。もちろん、卓越した物語を生み出そうとしたら、ありったけの才能と努力が必要になる。
「Story is King」という標語を掲げ、才能のあるストーリーテラーを多数抱えるピクサー・アニメーション・スタジオでさえも、1つの映画の物語作りに2年を費やすし、それでもうまくいかないことがあるほどだ。

 

でも、そこそこのレベルならば、誰でも簡単に作れると僕は思っている。
そんなわけで、「誰でもできる! ハリウッド式ストーリーテリング術」という連載をはじめることにした。
こちらが勝手に想定している読者は、かつて映画の世界に憧れを抱きつつも、どうしたらいいか見当もつかなかった10代の頃の自分だ。だから映画を作りたいと思っている人はもちろん、小説家や脚本家になりたい、漫画やゲームの原作を作りたいという人が主な対象となると思う。ビジネスにおいても企画や商品を作るうえで、ストーリーテリング術はひょっとしたら役に立つかもしれない。

 

僕が目指すのは、いわば手品の種明かしだ。
20年以上ハリウッドで取材した経験を生かして、選ばれた人にしかできないと思われがちなストーリーテリング術を、一般の人に開放してしまう。

 

さあ、準備はいいかい?

 

 

※1:「アンセイン~狂気の真実~」(2018)。クレア・フォイ主演のスリラー。スティーブン・ソダーバーグ監督はiPhone 7 Plusに、カメラレンズを取りつけて撮影を行った。カメラアプリはFiLMic Pro。
※2:オンラインコースがある。現時点で最強は、マーティン・スコセッシ(映画製作)から、アーロン・ソーキン(脚本)、アニー・リーボヴィッツ(写真)、ハービー・ハンコック(ジャズ)、セリーナ・ウィリアムズ(テニス)、マーク・ジェイコブス(ファッション)ら超一流の講師陣を誇るMasterClass。このオンライン講座を受けるためだけにも英語を勉強する価値がありそうだ。
※3:マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長は、かつて20世紀フォックス製作の「X-MEN」やソニー・ピクチャーズ製作の「スパイダーマン」に参加。このときブライアン・シンガー監督やサム・ライミ監督といったインディペンデント映画出身のフィルムメーカーとアメコミ映画との相性の良さに気づいたという。マーベル・スタジオの映画でメガホンを取るのは、第一弾「アイアンマン」のジョン・ファブロー監督から、「キャプテン・マーベル」のアンナ・ボーデン&ライアン・フレックの監督コンビに至るまで、大半がインディペンデント映画出身である。
※4:何らかの事件を体験した撮影者が残したとされる映像を観客に提示する疑似ドキュメンタリー手法。「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」で一世を風靡した。その後、「パラノーマル・アクティビティ」シリーズや、「クローバーフィールド/HAKAISHA」や「クロニクル」といったヒットが生まれている。
※5:具体的な事例については、今後ご紹介します。

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