HOME メディア 私のつくり方 「紙の雑誌の時からイキオイの落ちないデジタル版雑誌のつくり方」 クーリエ・ジャポン 井上 威朗さん
2017.11.8

私のつくり方 「紙の雑誌の時からイキオイの落ちないデジタル版雑誌のつくり方」 クーリエ・ジャポン 井上 威朗さん

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2007年に創刊され、ビジネス/プライベート問わず、人生をよりよく過ごすためのヒントや発想法に満ちた世界中の情報を集めた月刊誌。意識が高くポジティブなビジネスパーソンに愛読されてきた『クーリエ・ジャポン』は、10 年の時を経て、有料会員制ウェブサイトに完全移行。この新しい船出を編集長として迎えた井上威朗さんに、雑誌のデジタル化のやり方、その背景について教えてもらった。

※本記事は2016年9月に発売したSynapseに掲載されたものです。

クーリエ・ジャポン
井上威朗さん

1995年講談社入社、『アフタヌーン』編集部に。講談社を目指したのは、漫画編集者を志したため。『ああっ女神さまっ』と『寄生獣』が同時に連載される『アフタヌーン』に感動したから。99年 『Web現代』編集部からデジタルコンテンツ部を経て、2001年講談社選書メチエ編集部に。一度『アフタヌーン』に復帰して、学芸図書出版部でノンフィクション書籍を手がける。2013年よりクーリエ・ジャポン編集部に。15年より編集長。

 


『クーリエ・ジャポン』という雑誌をつくる。

漫画の編集者になりたくて講談社に入った井上さんが、編集者としての腕を磨き、『クーリエ・ジャポン』にたどり着くまで。そしてその媒体は、いかにつくられるのか。

 

― 講談社に入られた理由は?

「もともと漫画をやりたくて。入社後は月刊アフタヌーンでみっちり鍛えられました。漫画の編集者って、漫画家が息を止めてたどり着こうとする深い海の底に一緒に付き合うものなんです。そこで、作家の意図を深く汲み取ることの大切さを学びましたね」

 

― で、その後、ウェブ現代に行かれた。

「今度は完全に逆で、読者の欲望に徹底的に奉仕せよと。オマエの給料はあくまで読者が払ってくれているんだと言われて。ちょうどウェブ媒体が出始めた2000年ごろです。そこで得たのは…… エロという結論(笑)。講談社が提供する安心で過激すぎないエロは、読者の欲望を満たす課金モデルのひとつになり得るなと」

 

― それから講談社選書メチエで学術系の本をつくられ、漫画に戻り、さらにノンフィクションの書籍を経て『クーリエ・ジャポン』に。

「ノンフィクションって、基本嫌がる人に取材するんです。"あなたのあの時の選択が、今回のネガティブな結果に繋がってるんじゃないか?"と尋ねたりもする。だから書籍時代、全然取材アポが取れなかった。『クーリエ・ジャポン』に来たら、ここがすごいブランドだと分かりました。"読んでます読んでます!"って電話1本で快諾されて衝撃でした(笑)」

 

― なぜなんでしょう?

「10年続いた紙雑誌の時代から一貫して、前向きで人の背中を押すメディアでありたいと標榜してきたからだと思います。その大方針の上で、創刊時から世界の多様性を紹介し続けてきたのです」

 

― 編集部にはどのような方々がいらっしゃいますか。

「社員が4人、フリー編集者が4人、翻訳者が2人という陣容で、分担してひたすら色々な海外メディアを掘っています。以前は、アラビア語やポルトガル語なども含めた各言語の担当者が常駐していたようなのですが、世界中のあらゆる言語で書かれた記事に対して、コンスタントに日本人が読みたいものがあるわけでもなかろうと、現在のかたちになりました。私も、ここに来るまでは世界中に特派員がいると思ってました」

 

― 対応されてる言語は?

「2014年以降は、英語・フランス語・スペイン語には常駐担当者がいます。ほかの言語についてはフリーの方にお願いしています」

 

― 『クーリエ・ジャポン』に配属された時の印象は?

「とにかく編集部員が有能で。エラいところに来てしまったな、と。"井上さんは、このメディア担当で"って言われそうになったんですが、あまりに外国語ができないので、外してくれました(笑)。それで取材ものとか国内回りの記事をつくっていて。

海外のメディアも、英語のニュースフィードみたいなものに、"日本 消費税"とかの言葉で検索かけて、気になるニュースが出てくると、周りの大学院生とかにバイトで翻訳してもらったり……大きな声で言えないですが、自腹(笑)。そうこうしているうちに、編集長を仰せつかって。それと概ね同じタイミングで、雑誌のデジタル化が決定したわけです」

 

デジタル化はいかになされたか。

 

10 年続き、多くの固定読者がついていた人気の雑誌が突如、デジタル化。その背景では何があったのか。そもそも「突如」だったのか否か。

 

― 『クーリエ・ジャポン』は2016年3月から電子版のみになりましたが、その経緯をお聞かせください。

「デジタル化するという話は以前から進んでいました。はじめは紙と両方出すつもりだったようで、それは大変だけど面白いな、いっぱい記事をつくっちゃうぞ! と他人事みたいに思ってたら、編集長をやれと。それと同時に紙をなくす話も決まって」

 

― どう思われました?

「紙かウェブかという件よりも、編集長は勘弁してくれないかなと(笑)。現場を離れるのがイヤだったので。でもウェブなら、編集長やりつつ現場で記事もつくっていいらしいので、まあいいかと」

 

― デジタル化はスムーズに進んだんですか?

「すでにウェブサイトの構築は進めていたので、そこはスムーズでした。それよりも、紙の時の方針をきちんと続けていくというほうが大事で。世界1500メディアから日本のメディアで読めない記事を提供し、世界の多様性を読者と共有しながら、読む人の背中を押すもの……という。ここはウェブでも変えずにいくと」

 

― 逆に大きく変わった点はありますか?

「編集部内で議論して、ニュース多めでいこうと。ニュースといっても速報ではなく、"世界ではこんなすごいことが起こってるんだ!"ということを、せっかくデジタルなんだから、文字数という制約は気にせず、たっぷりと読んでもらおうと決めました。毎日更新なので、"面白い!"と思えるものは全部いこうと」

 

― 完全デジタル化以降の反響はいかがですか?

「とても好評で驚きました。最悪の場合、紙で発行していた時の、100分の1程度になることもあると聞いていたんですが、うちは数万部発行していたのが、そこまでの落ち込みはなく、今は、万単位の会員数を視野に入れて着実に進んでいます。ページビューは1日平均10万ほど。国際情報メディアという枠組みではトップクラスじゃないですかね」

 

― 読者層に変化はありました?

「それも、驚くほどなくて(笑)。デジタル化する時に『ローンチパーティ』と名付けた読者モニターの集いを講談社の社屋で開催したんです。有料会員限定で募集したのですが、すぐに埋まって。紙の雑誌でやっていた時代にも読書会などを通じて読者と接していましたが、当時と会員プロフィールが驚くほど似通っていました。

ひと言で言うと、子育てをしていないビジネスパーソン。20〜40代の男女です。すごい大企業にお勤めだったり海外赴任されてたり、"こんなパーティにわざわざお越しいただくなんて!"っていうような超多忙なみなさんが中心でしたね」

 

― デジタル化にはどんな感想をお持ちでしたか?

「出席してくれたみなさんは、一様に"紙に戻せ"と(笑)。ウェブになっても応援してくださる、と言いながら、やっぱり紙で読みたいっておっしゃってましたね。当社に、紙の増刊を刊行できるリソースを引っ張ってきてくれれば……と営業しておきましたけど(笑)」

 

 

デジタル化した雑誌を続けていくこと。

 

どのようにお客さんを集めるのか。紙の雑誌に勝る点、劣る点。そしてこれからの課題は?

 

― 雑誌のウェブ化に向けて、どのような準備をされましたか?

「多くの著者の方から意見をいただきました。なかでも成毛眞さんのお話はありがたかったですね。ともあれ、顧客目線に立てと。たとえば有料サイトって途中まで無料で読めますよね?その無料部分を長く取らないと、リピーターになってくれない。彼らの滞在時間を増やすことが、最終的には有料登録につながるわけですから。

そこは意識しました。それと、1本の記事を読み終わるのに、ページをあまり送らないこと。できる限り1ページで多くを見せる。そういう設定にするとページビューは稼げなくなるけど、それはこちらの都合で、読者には関係ありません。人はできるだけ楽に面白いものをいっぱい読みたい。その欲望に忠実にいこうと」

 

― デジタル化してよかったですか?

「いい点悪い点両方ありますね。いい点は、すべてが自由なところ。長めの記事を頻度を問わず発信できます。企画の方向性も広がりました。悪い点は、つくるところを突き詰めきれていないところ。動画も使えるしVRでも工夫できるはずなんですけど、どうしても我々自身が紙の雑誌で育ってきているので、デジタル側の編集という前提がない。まだ出版界に、ウェブに特化した編集力を身につける方法が確立されていないんです。今も模索していますね」

 

― サイトを拝見していると、積極的にイベントに取り組まれていますね。

「デジタルメディアは、読者とのリアルでの接点がないと成り立たないのではないか、という仮説を持っているんです。だから、手間暇もコストもかけてます。デジタルは、ブログやSNSの延長線上にあると考えています。読者と同じ地平にある。だから"一段上だぜ"みたいな視点は絶対に持っちゃいけない。

そんな不快なものにお金は払いたくないでしょう? 読者と同じ目線でありつつ、絶対誰もやらないことをやるしかない、と思ってるんですけど、こんないわく言いがたい話をサイトから発信できないじゃないですか。だから生で読者と会って丁寧に話を繰り返すしかないのかなと」

 

― 課題はありますか?

「もちろん有料会員数を増やすことです。そして会員の顔が見えるメディアであること。読者の欲望を優先しながら、誰かの背中を押せるような内容を提供し続けていく一方で、いかに欲されていても、誰かや何かをおとしめるようなことはしない。そして、提供・仮説・検証の繰り返しですね。トライしてみて、アクセスが少なかったら仮説が違ったということでやめればいい」

 

― 雑誌の未来についてはどうお考えですか?

「雑誌は言葉通り"雑"です。あるひとつの価値観に塗りつぶされているのは雑誌じゃない。読者が想像してなかったような記事を"こういうのも面白いよ"と読ませて、納得させる。これを繰り返しやらないとすたれますよね。逆にこれができれば、みんな戻ってくるし、読者の顔が見えている限り、広告も入るし、雑誌は成り立ち続けるんじゃないかなと思っています」

 

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