HOME メディア 「読者と直接触れ合う場。電子版ならではの圧倒的価値を背景に、ニュースの『次』のステージを支援する」ウォンテッドリーやイベントレジストと手を組む日経新聞 渡辺洋之さん
2017.11.8

「読者と直接触れ合う場。電子版ならではの圧倒的価値を背景に、ニュースの『次』のステージを支援する」ウォンテッドリーやイベントレジストと手を組む日経新聞 渡辺洋之さん

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日経電子版
渡辺洋之

日本経済新聞社執行役員 デジタル事業担当補佐 電子版統括。1985年、日本経済新聞社入社、日経マグロウヒル(現・日経BP)に出向。95年より米シリコンバレー支局特派員。98年「日経パソコン」副編集長。2001年、同編集長。08年、執行役員。09年、日本経済新聞社デジタル編成局次長。日本経済新聞電子版を立ち上げ。12年、同局長。15年、執行役員 電子版担当。16年4月より現職。日経電子版の会員は現在約300万人。有料会員は紙の新聞とセットで購読する「Wプラン」契約者を含めて約45万人。日経と日経BPのウェブサービス利用に必要な「日経ID」会員は700万人以上。

※本記事は2016年6月発売のSynapseに掲載されたものです。


 

インターネット黎明期を体感。取るべきポジションを決めた。

 

― 渡辺さんは日本経済新聞電子版に携わられるまで、どのようなお仕事をしてこられたのですか?

「私はもともと理科系だったんですが、エンジニアは無理そうなのでメディアに行こうと1985年に日経に入りました。で、実は日経BP社に長くいまして、『日経パソコン』とか『日経ビジネス』で記者をやっていました。その後、95年から日経BPの特派員としてシリコンバレーに3年間行きました。

帰国後は、『日経パソコン』の副編集長から編集長になり、発行人を経て、B P のネット事業に関わっていたのですが、2009年に日経電子版のローンチを手伝ってこいと。翌年ローンチしたら、またBPに戻る予定だったのですが、まだ電子版を担当していますね(笑)」

 

― 電子版をやりたかったわけではなく?

「いやいや、青天の霹靂ですよ。私の編集長時代、『日経パソコン』はすごく売れたんです。だから自分では紙の雑誌の編集長が向いてると思っていたんです」

 

― シリコンバレーでのご経験が大きいのでは?

「そうかもしれないですね。何しろ95年。ウィンドウズ95が出て、JAVAやネットスケープができた時代です。インターネットが世の中を変えることを体感できたし、ベンチャーの血気盛んなヤツらとも触れ合えました。

帰国後しばらくして、04~05年頃に、『インターネット時代の会社のあるべき姿と現実とのギャップ』みたいなレポートを数人で勝手に書いたんです。経営企画の担当の仲のいい先輩に、A4のエクセル1枚で、『長期計画を考えるうえでもっと、インターネットぐらいイメージしたほうがいいですよ』って」

 

― 簡単に言うとどんな内容だったんですか?

「広告への取り組み方とか、BPのポジションとかを10項目ほど。十字に線を引いて、縦軸に(A)個人 対(B)会社を置き、横軸に(C)速報 対(D)解説という要素を置いて、どの辺の座標にBPはあるべきかと」

 

― 4象限のマトリックスで表現された。

「Yahoo!さんとかGoogleさんのポジションは『個人・速報』ゾーンなんです。そこですごく強い勢力を誇っている。新聞の場合は『個人よりは少し会社寄り・速報』ゾーン。Yahoo!さんとGoogleさんにすごく近い位置。だからのみ込まれちゃうんですね。我々は『会社・解説』ゾーンじゃないかと。

当時は無料広告モデル全盛だったので、ユーザーからはお金はいただかないんですけど、個人情報は全部取りました。ちょうど個人情報保護法ができた頃だったので、みなさん漏れることを恐れて諦めてたんです。それに対して我々は逆張りでいこうと」

 

― なぜですか?

「数字がスケールしないからです。売り上げって、『ページ単価×ページビュー』ですよね。 Yahoo!さんのページビューが仮にうちの100倍あるとして、売り上げを10分の1ぐらいにまで詰めたいならページ単価を上げるしかない。日経BPというプロのつくる専門情報に対して、それを知りたい人が集まり、かつ彼らの個人情報も把握している。ならばページ単価は10倍でも勝負できるだろうと考えました」

 

「紙」の電子化ではなく、電子ならではの圧倒的価値を創出。

 

― 日経電子版は無料広告モデルではなく有料です。まず、どんなことをお考えになりました?

「最初に考えたのは、商品の不等号の向きを完全に電子版側に強くしましょうということ」

 

― 不等号といいますと?

「新聞と同じものをネットで見られるのが電子版だというなら、その価値はニアリーイコールです。普通、新聞がネットになったら、紙代も印刷代も配送代もない分、安くなるって考えるでしょ? 我々はそれに与せず、月々4000円(当時)の値段に見合ったものをつくろうと考えました。となると、ネットで提供するサービスのほうが圧倒的にいいものでないといけない」

 

― 「圧倒的にいい」というのは具体的には?

「例えば、今、日経の朝夕刊に掲載される記事は約300本。更新は朝と夕方の1日2回です。これが電子版だと約900本。気になる記事は保存したりレコメンドしたりできますし、更新頻度は随時。トップページだけ見ると更新が少ないように見えることがあるかもしれませんが、

ここはその日最も大切なニュースから価値付けして順番に載せているので、大したニュースが入ってこなければ変わらないんです。それとは別に『速報』のコーナーは、どんどん更新しています。役割を分け、我々でニュースの大小を判断している。自分たちでキュレーションして“紙面”をつくっています」

 

― 1日900本の記事をどう提供するのですか?

「電子編集本部で独自に電子版専用の記事をつくってるんですよ。かつ、BPの雑誌記事なども展開するのですが、そのままでは使いません。普段の新聞読者にも読みやすいように手を入れるんです。専門誌の半導体の記事なんか、そのまま読んでも分からないので、解説を加えたり、短くポイントを絞ったりします。BPから出向している専門の部隊が担当しますね」

 

― 紙よりも電子版で先にすごいニュースが出ることもありますよね?

「特ダネでも先に出すことがあります。その判断は編集局が担います。これからも閲覧者数の多い9時から5時のあいだで、どんどん電子版から先に出していきます。そのためのチームもつくりました。先にネットでコンテンツを出す“デジタルファースト”の考え方は、今後どんどん加速していくと思います。それで日経電子版は、新聞とデジタルの壁が融合しながら動いていく媒体になる気がしますね」

 

― 電子版で記事づくりは変わりましたか?

「特ダネの、その後の展開が追えるんです。例えば、スカイマークの救済というネタは日経が電子版で抜いたんですが……7時のテレビニュースで取り上げるかもしれないから、その前に電子版に載せたら大騒ぎ。案の定NHKは『今、入ったニュースです』って放送してくれました(笑)。で、さらに解説をどんどん積み重ねていった。

1時間のあいだに記事がタイムラインで増えていって面白かったですよ。一方で、通常日経では書かないようなものが定番化したりもしていますね。例えば、街ネタを扱う『東京ふしぎ探検隊』というコラムで『西武新宿と新宿駅が繋がらない理由』は非常に読まれました。あとは就職活動を扱う『就活探偵団』というコラムで『博報堂の面接で、実は電通が第一志望って言っていいですか?』などはウケましたね(笑)」

 

― 渡辺さんのBP時代のレポートになぞらえると、必ずしも「コアな読者層に向けての深い解説」というポジショニングだけではないですね。

「速報も解説も両方ですね。そもそも日本経済新聞自体が経済や産業に限定した専門性の高いメディアなので、こと自分たちの専門領域においては発信源にならなければならないと思っています。『日経によると……』って、速さのゆえに引用されながらも、みな専門的にそのジャンルを取材しているんだから、解説も書く。

一時期米国で“Breaking News”が流行りましたが、我々は“BreakingViews”。速報だけでなく、深い解説をできるだけ早く、的確なタイミングで出していく。分野を限ってやっているので、コモディティー化はしにくい領域なのではないかと思っています」

 

ニュースを知った後の「なりたい自分」をアシスト。

 

― 記事の更新頻度と記事本数の他に、デジタルならではの良さや取り組みなどはありますか?

「やはりパーソナライズが圧倒的です。実はその分、読者のみなさんには大変なお手間をとらせるんですが、一般的な性・年代・住所だけではなく、職種・業種・従業員規模・役職など非常に細かく登録していただいています。プラットフォーマーなら、あらゆる機会にログインさせますが、クロスデバイスのメディアでそんなことやっているのはなかなかないと思います。

かつての新聞は販売店を通じてしか読者と接触できなかったんですけど、今は直接不満や要望を聞くことができます。以前は販売店にしかなかった顧客データも、今や我々が直接持って、繋がることができるようになった。インターネットとは流通革命ですね」

 

― パーソナライズ化で何を提供するのでしょう?

「読者のおもてなしに活用しています。新聞を読んで色々なことを知ったからこそ、“次”に何を考え、行動するか。同様の日経の過去記事を表示したり、さらに専門領域の本をオススメしたり、MBAのご案内をしたり……ビジネスパーソンのライフタイム支援ができると考えています。

新聞を読んで切り抜くんじゃなくて、もっと勉強したりイベントに行ったり、転職を望んだり、行動面でもう一歩先に進むきっかけにしてもらえればいいんじゃないかって。“読んで学んだらキャリアアップを目指す”みたいなね。日経という文脈のなかで新聞を読んだ先に考えうる色々なことのお手伝いをしたいなと思っていて、でもその先は、

うちがビジネスとして提供することではないので、例えばウォンテッドリーやイベントレジストのような新しいところと手を組むことで勉強会を開いたり、会社見学ができたりと、別の価値が提供できるのでは、と考えています」

 

― ニュースのその先へ、ですね。Yahoo!さんは、そこで「社会の課題解決」に向けての行動を示唆されていましたが、日経さんは読者が興味を持ったら、その人がより良い人生を過ごすための情報をまたお知らせしていこう、というお考えですね。

「Facebookの活用も始めました。グループをつくって、専門家の人に入ってもらって『マイナス金利』だけで1カ月以上話し合っています。そうそうたる専門家が一所懸命書いてくれて、日経の記者はやりとりが散漫にならないようにモデレートする。レベルの高いやりとりになるから荒れないんです。

従来のソーシャルみたいに、誹謗するようなコメントとかは、カッコ悪くて書けないような場になっています。かねてからソーシャルの玉石混交っぷりをなんとかしようという方針が社内にありまして、我々がきちんとやることでソーシャルのあり方自体を変えられるのではないかと。満を持してスタートしました」

 

― それも「ニュースの先」の体験提供ですね。

「新聞を読んでるだけでいいとおっしゃる方も多いんですが、こういう枠組みを揃えて、どんどん推し進めていきたいと思っています。大事なのは継続していくこと。じゃないと魂が入りませんから」

 

― 電子版はどういう層の読者が目立っていますか?

「最近は20代30代が増えています。毎月入会される方の約40%がそうです」

 

―20代は就活でしょうが、30代は……。

「まず20代は、去年の就活の頃から顕著になってきました。電子版って楽ですから。会社名で過去記事を検索できるし、保存もできる。企業研究や業界研究に最適だということが浸透しつつありますね。内定の時期を過ぎると次は配属先のポジションを獲得するための『配活』目当てで登録してくれます。

そして30代はリーダーとか管理職の手前だし、お客さんも含めた周囲が日経を読んでいて、『日経の一面ぐらい読んでないとな』ってことになる。社会の右や左が分かってきて、ようやく新聞の読み方も分かってくる時期だったりするんです。そこで紙でもいいし、電子版でもいいんですけど、お読みいただいてはいかがですか、っていう提案をしているんです」

 

― 完全にセグメントされていますね。

「志の高い若者から、将来のリーダー候補の中堅から、昔ながらの日経ファンのみなさんまで読んでいただいています。この濃いセグメントは、電子版を成立させるためのもうひとつのエンジンとして、ものすごく大事です。

すなわち広告。紙にも広告が入っているように、電子版で今の料金でみなさんをおもてなしできるのは、みなさんにふさわしい広告を出せるから。その“ふさわしさ”は、そもそも集めさせていただいたデータ分析にしっかり基づいています。そうやってさらに新たな商品を開発していこうかと」

 

― 新たな商品とはどういうものでしょう?

「ウェブとアプリで一貫したIDで連携できるので、総合的なプロモーションが可能です。なので、どのデバイスでも“あなたに適した情報”を提供するのは当然として、極端な話“部長向けバナー”“社長向けバナー”なんかも出せるんです。面白いでしょう(笑)」

 

 

速報も解説も両方。速くて深いブレイキングビューズを。

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