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2017.11.1

「既存メディアをリスペクトするメディア・オブ・メディア。」マクロミル系キュレーションマガジンAntenna 杉本哲哉さん

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スマートフォンの普及と同時に瞬く間に広まったキュレーションメディア。そのなかでも若年層ユーザーを中心に高い支持を得て急成長を遂げているAntenna。運営会社グライダーアソシエイツの創業者でありAntennaで様々な施策を展開している杉本哲哉さんが見つめる未来とは?

※本記事は2015年9月発売のSynapseに掲載されたものです

 

株式会社グライダーアソシエイツ代表取締役社長
杉本哲哉

1992年、大学卒業後、リクルートに入社。2000年に独立し、インターネットを活用した市場調査会社マクロミルを創業。2004年、東証マザーズ上場を果たし、その翌年には東証一部へ市場変更。2012年、グライダーアソシエイツを設立し、代表取締役社長に就任。同時に、キュレーションマガジンAntennaを立ち上げる。

 


大規模小売店のように各フロアで好きなものを選ぶイメージ。

 

― まず、Antennaを立ち上げられた経緯を教えてください。

「もともとネットリサーチ業を手がけていましたが、世の中がガラケーからスマートフォンにシフトしたことにより、若年層を中心に急速に調査対象者からのレスポンスが減ってしまったんです。加えてSNSが世界レベルで普及した。スマホとSNSの登場が、当時僕がいたマクロミルの未来に影を落としかねない状況でした。

そこで、スマホユーザーについての知見を貯めたり、SNSのソーシャルグラフが調査に応用できるかを研究し始めたんです。すると、例えばFacebookだと住んでいる場所や友だち、生年月日、ジェンダーなどの情報が取得できますが、それらのデモグラ情報とリサーチとはあまり関係がないことが判明したんです。

ビル・エヴァンスを好きな人は福島にも横浜にもいるわけだし、同じ学校に通っているからといってポルシェが好きかどうかは分からない。つまりマーケティングリサーチは、デモグラではなくインタレストの方をもっと把握しないと意味がない、という結論に達しました。

また、それとは別の観点として、PCの前に着席してアンケートに答えるのではなく、スマホでどこでも答えられるようになると、調査の考え方そのものが根底から変わってきます。スマホ固有の機能が優れているので、カメラやGPSなどを使ったまったく新しい調査手法が、世界規模で出てくるに違いない。

そこで、我々自身のスマホについての知見がもっと必要だと考え、2010年から2011年にかけて『ポップコーン』というアプリをつくることから始めました。そしてアプリユーザーを調査したところ、時事ニュースへの関心はマーケティングと関係ないことが分かりました。そこで今度は月刊誌、週刊誌などのファッション情報や新規出店情報を発信してみると、はっきりとデモグラが分かれたんです」

 

― セグメント化されたメディアですからね。

「そうなんです。ファッションやカルチャー、ライフスタイル、エンタメなどでは、インタレストがはっきり分かれることを知り、ネタ探しも兼ねてあらためて雑誌をじっくり読んでみました。テレビやラジオもそうですが、雑誌にはプロのライターやカメラマンが手がけている、いわゆる本物のコンテンツが存在します。

要するに、コンシューマーが好き勝手にアップできる、動画共有サイトやインスタグラムのようなCGMではなく、玉石混淆ぶりが低いということです。一方でテレビの視聴率、雑誌や新聞の購読率は下がり続けていて、ひと昔前は各家庭になくてはならなかったラテ欄が今はEPGになっている。

じゃあどこへテレビ情報を届ければいいのかとか、雑誌もどんどん読まれなくなってきていることを考えた時に、本物のコンテンツがあるテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、映画などの情報を、最もよく見られているスマホというディスプレイに届けるサービスを目指そうと考えて、Antennaを企画しました。

我々は、このAntennaをメディア・オブ・メディアと呼んでいます。新しいメディアを立ち上げて既存メディアのお株を奪ってやろうなどとは一切思っていません。むしろ既存メディアのハイクオリティなコンテンツをリスペクトしてやみません」

 

― Antenna以外にも、キュレーションアプリは結構出てきていますよね。

「確かにそうですが、キュレーション自体は決して目新しいビジネスモデルとは思いません。そもそも新聞は自社でも取材をしていますが、共同通信やAP通信などから記事を買ってつくっていますよね。地方のテレビ局も地元のニュースと情報番組を自分たちで制作し、それ以外のほとんどの番組は東京のキー局や関西の準キー局から買っているわけです。コンテンツを集めて編成してメディア力を持った結果、広告が入るという構造は昔からずっとあるんです」

 

― Antennaの滑らかな操作性はFlipboardと似ていますよね。

「心地よさに関しては、影響を受けています。Flipboardの素晴らしいところは、RSSで集めた記事を誌面然とさせる技術と着想。これは目新しいと思ったのですが、Antennaではビジュアルを主役にして、情報量をもっと増やしたいと思いました」

 

― UIは相当苦労されたのではないですか?

「そうですね。単純にオリジナルの写真を引っ張ってきていると思われるかもしれませんが、企業が配信しているRSSの写真データは、サムネール並みにサイズが小さいことが珍しくないんです。なので、解像度が最も高い元の写真を自動で探し出すロボットと、Antennaの画角にはめ込んでも自動調整するプログラムを両方開発しました」

 

― それはすごいですね! ただ、画像収集を自動で行っているとのことですが、記事配信にあたって人為的に行う部分もありますよね?

「コンテンツの選別ですね。各社さんから記事を配信してほしいというメールが毎日来るので、それらをひとつずつ見て、既存コンテンツとのかぶりや、更新頻度、記事や写真の質などをチェックします。実際に配信が決まったらRSSの有無を確認するのですが、なかにはRSSをやっていないところもあるので、その場合はサポートしたりもします」

 

― コンテンツを配信してくれるメディアはどのくらいあるんですか?

「提携メディアと呼んでいる400ほどのコンテンツプロバイダーに、コンテンツを配信してもらっているんです。Antennaにはショッピング機能もありますし、動画も積極的に入れていますし、ファンクションは多様なので、配信する側にもメリットはあると思います。あとはテレビの番宣やCMも載せていますね。これはテレビ局や広告主さんが費用を出してくださっています」

 

― 各社と一緒につくっている感じですね。

「最近は企業のオウンドメディアもたくさん出てきていて、企業によっては商品ごとにかなりの数のオウンドメディアを持っていますよね。しかし、単体ではそこまで集客力が強くないため、Antennaでオウンドメディアを展開したいという相談がよくあります。自社サイトに集客することを考えると、Antennaで展開する方が格段に効率的ですから」

 

― そういう話が出てくる業種は、化粧品やクルマなどが多いですか?

「あとは住宅ですね。テレビCMで名前は認知されているものの、商品の特徴についてはほとんど知られていない商材ですね。テレビはブランドを浸透させるメディアとして大変優れているのですが、ブランドの理解を深める部分では、スマホのようなパーソナルなデバイスの方が向いているのかなと感じますね」

 

― 広告のあり方も変わっていきそうですよね。

「かなり可能性がありますよね。クルマ好きな人だけが集まるサイトもありますが、彼らだってクルマのことだけを考えて生きているわけじゃなく、家や食事のことなども当然考えます。Antennaは、大規模小売店のようにいろんなフロアを回りながら、自分が好きなものをピックアップしていくイメージなんです」

 

― どういった記事がクリップされやすいですか。

「やはり女子ネタが多いです。生活の知恵のような情報が人気なのと、あとは広告が非常に多く見られているのも特徴的だと思っています。我々は業界に先駆けて、広告のコンテンツにはすべて“PR”とつけているので、ユーザーからはすぐに広告と分かるのですが、見せ方の綺麗さにこだわったうえで、きちんと編成されていれば、広告自体をひとつの有益なコンテンツとして見てくれるんですよね」

 

 

メディアの今後のあり方について業界を横断して話し合える場を。

 

 

 

 

クリエイターがやる気を失う構造になってはいけない。

 

― 今後の方向性についてはどうお考えですか。

「今、Antennaのなかではコンテンツを前面に出しているのですが、今後は更に検索しやすくしていきます。例えばですが、『ペット』や『ママ・子育て』『暮らし・インテリア』など、コンテンツではなく、メディアを前面に出すインターフェイスやUIを意識した方向に舵を切っていきます」

 

― そうなると、メディアごとにレイヤーができる感じになるのでしょうか?

「そうですね、雑誌を購読しているような感覚です。更に言うと、これからはBluetoothやクロームキャストを介して、スマホで録画したテレビ番組を見るようになるはずなので、写真と動画で見るラテ欄をつくります。例えば連続ドラマの場合、出演者の文字情報だけよりも、放送回の写真や予告動画を見ることができ、前回、前々回の見逃し配信にもつながっていて、更に全話見終わったらDVDボックスが買えるとか、そそられますよね。

それとAntennaには、映画のトレーラーやショッピングの機能もあるので、見たい映画を上映している近くのシアターをGPSでボタンひとつで探して、前売り券を買うところまでできるようにもしたいですね」

 

― 東京オリンピックへ向けて考えていることはありますか?

「日本を訪れる外国人の数が毎年少しずつ増えていますから、彼らに向けて日本の情報を発信するために、Antennaの英語バージョンを考えています。といっても、海外でリリースするのではなく、日本の空港に着いたらダウンロードできるようなサービスを提供したいと思っています。

地域別のレストラン情報などを英語で発信して、徐々にAntennaを知ってもらい、自分たちの国に戻った時に、こういう便利なものがあったよと広めてもらいたいですね」

 

― J-WAVE の『TRAVELLING WITHOUT MOVING』や日テレの『キラきら時間』などに番組提供されていますが、特にFMラジオが多いですね。

「J-WAVEに関しては提供番組が3つありますが、ラジオはビジュアルがない分、親和性が高いと思っています。例えば、ウユニ塩湖のことをラジオで聞いたら、相当すごいのは分かるけれども、どんな景色なのか見たくなるじゃないですか。そんな時にAntennaに記事が出ていると、シナジーになりますよね」

 

― これからのメディアにとって大事なことや課題は何でしょうか?

「スマホがメディアに及ぼす影響や、プラットフォームとしてのスマホの役割については、骨太な議論が必要です。コンテンツを提供しているメディアの先にいる人たち、要するにライターやカメラマン、ミュージシャン、映画監督などのクリエイターがやる気をなくしたり、失職するような社会は日本人にとってマイナスだし、構造的にそうなってはいけないと思っています。

人間は利便性や合理化に抗えないところがありますし、将来的に人口が減っていくであろう日本社会の状況を考えると、無駄なところにコストをかけられないことも理解できます。ただし、その考え方をクリエイティブやジャーナリズムの分野に安直に当てはめてしまうと、間違ったことになってしまう気がします。

テレビ関係者や出版関係者はスマホに対して複雑な思いを抱きつつ、しかし自分たちも使っているわけですし、その便利さは認めざるを得ないですよね。そのうえで一線を越えてはいけない部分をどう担保していくべきか、もっとそれぞれの業界を横断した有識者会議のような場があってもいいんじゃないでしょうか。

一方で50 ~60年間続いているテレビを収益源とした大きなビジネスモデルと雇用のシステムがありますが、それが一気に崩れたら大変なことになると思います。誰もそれを望んでいるわけではないし、我々もテレビのよさを認めているわけですから、どう共存していくべきかを話し合う場が必要だと考えています」

 

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