HOME メディア 「スタンプクリエイター登録制に。マーケットからスターを。~LINE Creators Market~」LINE 渡辺尚誠さん
2017.11.10

「スタンプクリエイター登録制に。マーケットからスターを。~LINE Creators Market~」LINE 渡辺尚誠さん

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※本記事は2015年6月発売のSynapseに掲載されたものです。

 

日本人のコミュニケーションを変えたといわれるLINE。その企画・開発力の秘訣や一般のクリエイターを巻き込んだ「LINE Creators Market」立ち上げの経緯、今後目指すところなどをスタンプ企画チームのマネージャーを務める渡辺尚誠さんに語ってもらった。

 

LINE
コンテンツ事業部スタンプ企画チーム マネージャー
渡辺尚誠

大学卒業後、女性誌の編集者を経て2010年、ライブドア(現LINE株式会社)に入社。LINEスタンプ事業に携わり、2014年、「LINE Creators Market」を立ち上げる。好きなテレビ番組は『ドキュメント72時間』『NHKスペシャル』『鶴瓶の家族に乾杯』。

 

スピード重視の『3・3・3』ルール。

 

―LINEスタンプ立ち上げの経緯を教えてください。

「最初は軽い気持ちで始めたんです(笑)。もともと通常の小さい絵文字しかなかったのですが、もっと大きくしてみようかとトライ&エラーを繰り返し、いくつか案を出してみました。

そうしたらムーンというキャラクターが、感情をダイレクトに伝えられるところが受けたようで、ユーザーの反応が最もよかったんですね。そこから逆の発想で、くまのブラウンのような表情の乏しいキャラクターなどもつくっていきました」

 

―当時の渡辺さんのお立場は?

「私はライブドアで、ライブドアニュースの女性向けコンテンツを担当していて、それと同時並行でスタンプ事業を始めることになりました。提供を開始したのは2011年10月ですね。アイディアが出てからローンチまでは、数カ月程度でかなり早かったと思います」

 

―ムーンはリリース前の調査段階では、他はイマイチだけど女子高生には高評価で、それがリリースの決め手になったそうですね。

「ウチは少数の意見や個人の自由な発想をできるだけ大事にするんです。特にスタンプは若者に使ってほしかったので。楽しいとか面白いと思ってもらうには、クリエイティブな要素が欠かせないと思っています。

もちろんキャラクターの人気や、表情の使用頻度などのデータはすべて持っています。でも、データだけでは受け手の感情を揺さぶることはできませんから」

 

―渡辺さんが所属しているLINEコンテンツ事業部の主な事業内容についても教えていただけますか?

「主に課金系のコンテンツを担当していますが、それ以外にもLINEがあまり浸透していない海外エリアでどんなスタンプが最適なのかを研究しているほか、現地のイラストレーターとの契約も行っています」

 

―海外展開をしてみて、意外な反応などはありましたか?

「やはり国ごとにランキングが異なるのが興味深いですね。日本や台湾では、人間以外の猫などのキャラクターが好まれるのですが、タイやインドネシアでは2Dや3Dの女の子のキャラクターが人気です。

一方でデザインに関しては、どの国でもシンプルなものが求められていて、そのあたりの感覚はほぼ変わりません。ですからフレーム自体はほとんど変えずに、コンテンツを国ごとに使い分けるということをやっています」

 

―どんなことに留意しながら業務を推進していますか?

「かつて所属していた『JJ』の編集長に『仕事は楽しくね。ただ、楽しくするのも自分だよ』と言われたんです。だから、モチベーションを上げられるのは自分しかいないと思っています。そしてそのためには、常に新しいことをやって、楽しさを見つけよう、と。もうひとつ重要なのは、組織の意思決定を早くすることですね。

もちろん、その決定をする上の人たちも時間が限られているので、すぐに判断できるよう、ある程度形にしてから相談することを心がけてはいます。面白いのは、早さを担保するための仕組みとして、LINEのグループチャットに役員もミドルマネージメントも現場の人間も参加していて、新しいアイディアを全員が同時に確認できるようにしているんです。

現場から役員に直接コミュニケーションを取ってOKをもらった方が、圧倒的に早いですからね。会社自体が現場主義で、私は一応ミドルマネージメントなのですが、そもそもその立場の人間がそれほどいない。私自身も現場から相談を受けることがありますが、なるべく自分で決めずに、直接上層部に提案してもらうようにしています。

あと、ウチの会社がいいのは、組織の上層部に細かいことを相談しても『そんなことをわざわざ相談するなよ』と言う人がいないことです。そのあたりも直接役員に提案しやすい土壌につながっていると思います」

 

―では、そのアイディアが生まれてから形になるまでのスピードはどの程度なんですか?

「意思決定だけでなく、そこのスピードも重視しています。会社の哲学でもあるんですが、『3・3・3』というルールがあります。具体的には、3分以内にチャットなどで事業の方向性を役員に伝えて、3時間後にはその事業のKPIや売り上げ予測を出す。そして3カ月後にはサービスの形にするという感覚で進めています」

 

―それは早いですね! ただ、他部署との調整が大変になるということはないのでしょうか?

「ないですね(笑)。というのも皆が同じ目的を共有しているからです。LINEの基本哲学は『グローバルで通用するシンプルなUIをつくる』こと。

ユーザーが使いやすいシンプルさとグローバル性がなければ、そのビジネスの売り上げがいくら見込まれるとしてもやらないという結論に至ります。その目的が全社で握れているので、部署の論理にとらわれず全体最適を図ることができると考えています」

 

―スタンプをはじめ、サービス開発の力を向上するために心がけていることはありますか?

「よく私が社内で話しているのは、企画者はもちろん、エンジニアやデザイナーも常にデータに触っていてほしい、ということです。例えば、昨日販売したキャラの売り上げはどうだったのか、LINEの起動数や前日のスタンプの売り上げデータはどうだったのか、といったことを時間が空いている時に常にチェックする習慣をつけておく。

そういうデータを各人が頭に入れておくと、アイディアのタネにもなるし、またアイディアが生まれた時の説得材料にも使えます。常にデータに触っていれば、きっと何かしらの気付きがあるはずで、それが新しいことをやりたいという燃料になると思うんです」

 

―でも実際に、エンジニアやデザイナーの方がデータを触ることはなかなかないのでは?

「いや、それなりに触っていると思います」

 

―では、そのための簡易集計ツールを用意しているのでしょうか?

「データを扱っているチームに必要な情報の抽出を依頼することもありますし、あるいはSQLを叩けば自分でデータ抽出ができるような環境は整えています。基本的に現場に入ったらすぐにアカウントの権限を取得させるので、各データを全員が閲覧できる環境になっていますね」

 

マーケットからスターを。それが我々の成長に。

 

―昨年からずっと話題のクリエイターズマーケットが立ち上がった経緯を教えてください。

「私自身がもともとやりたかったんです。ユーザーに対して常に新しいことをやっていかないと、ビジネスとしての成長が見込めないので、少なくとも3カ月に1回くらいは新たな驚きを提供したいという思いがありました。

他にもきっかけはいくつかあって、例えば彼女にプロポーズする時に使うような、自分たちのためだけのスタンプをつくりたいという問い合わせが非常に多かったこと。また、主に権利元さんと話し合って、スタンプの制作・販売をしていたのですが、一対一のやり取りだとクリエイティブな発想が生まれにくいという悩みもありました。

そういういくつかのきっかけと、受け手に新たな驚きを与えたいという思いとが重なり合って立ち上がったという感じですね」

 

―その時のスピード感はどんな感じでしたか?

「2014年4月にクリエイター登録ができるようにして、5月に販売を開始したのですが、クリエイターズマーケットをやることを宣言したのは2月末。その時点では告知のためのHTML1枚しかできておらず、審査体制もまったく整っていませんでした(苦笑)。リリース日に向けて体制を構築していったというのが正直なところです」

 

―クリエイターズマーケットのように生活者の力を取り込むことは、ウェブ業界にかかわらず、この先どの業界でも重要になっていくと思いますか?

「発想には限界があると思っています。スタンプもそうですが。三人寄れば文殊の知恵じゃないですけど、人がたくさんいる分だけアイディアがあるので、発想の生まれる場としてそういうビジネスモデルをつくることは大事だと思います」

 

―今後はスタンプをどんなふうに展開していきたいと考えていますか?

「スタークリエイターをつくりたいですね。クリエイターズマーケットでいうと、すでにクリエイターさんがある程度利益を出していて、有名な方も増えてきている状態です。

そういったクリエイターが、例えばLINE公式キャラクターグッズショップ「LINE FRIENDS STORE」で販売をしたり、「LINE BLOG」をやったりなど、スタンプの外に出て活躍できるように、彼らをより輝かせていきたいですね。そうなることで、さらに多くの人たちが流れ込んできてくれて、我々も成長できると考えています」

 

―LINEの登場によってコミュニケーションが変わったと言われていますが、今後、日本人のコミュニケーションについて、どうお考えですか?

「コミュニケーションの基本は、あくまでも会話から生まれてくると思っています。LINEのスタンプやトークはそのひとつの手段にすぎないですし、コミュニケーションの質を変えたとは思っていません。ですから新しい言語やツールが必要になれば、それに合わせて自分たちもイノベーションを起こしていかなければいけないですね!」

 

 

デザイナーやエンジニアにもデータを触ってもらう。

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