HOME マーケ 「WHO・WHAT・HOW」を突き詰め、実行する。 この一連のプロセスこそが真のマーケティングである ~ Marketing Demo株式会社 石井賢介代表取締役 ~
2021.4.6

「WHO・WHAT・HOW」を突き詰め、実行する。 この一連のプロセスこそが真のマーケティングである ~ Marketing Demo株式会社 石井賢介代表取締役 ~

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限られた可処分時間を奪い合うコンテンツの増大

 

吉田 昨今の消費者の変化など、感じることはありますか。

 

石井 生活者のメディア接触の意味でいうと、“変わったもの”だけではなく、“変わっていないもの”をちゃんと理解するというのも重要だと思うんですよね。

変わっていないものに関していうと、可処分時間は変わっていないわけです。1日の中で仕事が8時間、睡眠が8時間で、可処分時間は8時間になる。ここはきっと何十年も変わっていないですよね。
でも、20年前はその8時間のうちの半分以上はテレビによって消化されていたんだと思うんです。あとは人と会うなどオフラインの時間ですよね。

今は、特に若者は可処分時間を占めるテレビ視聴の割合が10%や0%になっている人もいて、その代わりNetflix、YouTubeなど、可処分時間を費やす別のコンテンツがスマートフォンで豊富にある。それが大きなダイナミクスかなと思います。

 

吉田 可処分時間を費やすコンテンツの種類が増えてきている傾向は、確かにありますね。

 

石井 今まで家の中でお金をかけないで暇を潰そうと思うとテレビを見るぐらいしかなかったけれど、 今はお金を使わずに楽しめることが増えていて、簡単に可処分時間を潰せる。“可処分Eater(イーター)”が増えているんです。それだけ世の中が面白くなっているということだと僕は考えるようにしています。

 

吉田 やはり情報を無料で見ることができるという意味でも、インターネットの影響が大きいですね。

 

石井 完全にスマホとインターネットの影響ですね。

 

吉田 コロナ禍での変化や気づきのようなものはありますか。広告のコミュニケーションやマーケティングの観点で教えていただけたら。

 

石井 細かいところでいうと、電車に乗る人が減ったから電車広告はどうなのか?など、生活環境、メディア接触の変化に伴うメディアや広告の価値変化のような話もあります。

テレビメディアでいうと、2020年春の緊急事態宣言の前後はコロナ感染拡大の情報に注目が集まっていたり、自宅での時間にシフトしていたことからテレビ視聴が増えていたでしょうし、現に報道番組は高視聴率を獲得していましたよね。一方で、そこに違和感を覚えている層も一定数はいて、「またこの報道か」「テレビではなく違うメディアを見たいな」と思わされることもあるほどだったと思います。

多くの人の視聴を取れたものの、長い目でみるとテレビ離れにつながりかねない要素も孕んでいるような気がします。
とはいえ、テレビがオワコンかというとそうではなくて、今でもテレビに代わるメディアがあるかといったら皆無だと思います。

 

吉田 これだけメディアが多様化している中でも、テレビに代わるメディアは現れていない現状で、これからより一層テレビを多くの人が見る可能性はあるのでしょうか。

 

石井 今後どうなるかはわからないですが、間違いなく言えるのは、限られた可処分時間の中で、時間を取り合うメディアやコンテンツといったプレイヤーが増えてくるので、10年前よりテレビが盛り上がることは基本的にはないように思います。

そもそも、単一のものに対して多くの人の興味、嗜好が集中するというのが1980年代あたりまでです。これだけ個人の生活スタイルが多様化してきている中で、“国民全員が毎週同じ時間にドリフを見ている”といった、何か一つのプラットフォームが可処分時間を全部取れるなんていうことは難しいでしょうね。

 

吉田 80年代的なものからデジタルが進化した今、テレビCMも、大まかなブランディングのためのものというより、より細分化された商品戦略と連動するものが増えています。コモディティ化を避けるためには、ミクロ視点で小刻みにやっていく方向になっているのでしょうか。

 

石井 企業がやらなければいけないのは、コモディティ化を防ぐということであって、機能ではなく、そのブランドを指名買いする人たちを増やすことだと思います。「何を買うか」ではなく「誰から買うか」という世界になっていくので、ここをどれくらい増やせるかがマーケティングの中にあるブランディング要素の大きな役割になっています。

 

 

「広くてまあまあ深い」コミュニケーションが取れるのはテレビだけ

 

吉田 P&G時代も含めて、テレビCMの効果をどうお考えですか。

 

石井 特に洗剤みたいなB2Cのマス向け商材を扱っていたので、それは絶大ですよね。テレビを見ていないとか、そもそもテレビを持っていない人も増えてきているかもしれないですが、そうは言っても日本人の95%はテレビを見ています。かつデイリーアクティブ率80%以上のメディアは今のところテレビしかないので、テレビCMを辞めたら売上が落ちてしまうことは何度も身をもって経験してきました。

コミュニケーションを座標にして、横軸を「広い」「狭い」、縦軸に「深い」「浅い」で表すと、テレビは「めちゃくちゃ広くてまあまあ深い」というコミュニケーションが取れるメディアだと思っています。テレビCMは30秒の動画で伝えられて、リーチが90%を平気で超えますから。

テレビ以外に広さを取ろうとなるとGoogleディスプレイ広告だったりするわけですが、そこでできるコミュニケーションは「そこそこ広くてとても浅い」もの。小さいバナーが出る程度なので、30秒のテレビCMと比べると情報量は400分の1程度のものでしょう。

 

吉田 一方で、「狭く深く」いくメディアもありますよね。

 

石井 コンテンツメディアのタイアップ記事だとか、YouTubeでインフルエンサーを使うなどですね。ただ、それらは今のところ広がりがありません。ニッチなビジネスをやっている事業者はそれでいいかもしれないですが、洗剤のようなB2Cのマスビジネスで、そのような施策で仮に洗剤が2万人にリーチしたとしても、ビジネスとしてのインパクトはそこまで大きくありません。
テレビを除くと、あらゆるメディアは「狭くて深い」か「浅くて広い」なんです。もちろん「広くて深い」方がいいのですが、そんなメディアは今のところ存在しません。

 

吉田 メディア側のお話でしたが、一方で事業者側が必要なものは何でしょうか。

 

石井 広くてそこそこ深いという効率の良いメディアがなくなってきていることからも、広告に頼るだけのビジネスモデルを改めて考え直す必要がありますね。マーケティングの原則である「WHO・WHAT・HOW」、すなわち「誰に」「どのような便益を」「どのように」売っているのかをを突き詰めて、スターバックス的に勝手に顧客が寄ってくるブランドにしなくてはいけないんです。もちろん広告は引き続き重要ですが、だからといって広告で商品をヒットさせるのは年々難しくなっていると思います。

逆に、良いものは勝手にシェアされる世の中なので、徹底的にプロダクトを磨きこむというのが、王道ながらより必要になってきているのではないでしょうか。

 

吉田 当社では視聴率をメインとしたデータを扱うことが多いのですが、石井さんがP&G時代に「こんなデータがあればよかった」と思うものはありますか。

 

石井 視聴率は消費者の行動までをトラッキングしづらいのが難点ですよね。視聴率は10%だった。じゃあ、そこからどう効果があったのか?見た人はテレビを見た後に何をしたの?といったデータが取れない。

理想は、テレビを見た人たちの知覚・認識がどの程度変わり、結果として次の行動にどれだけ進んで最終的に購入に至ったか、コアクションのところまでトラックできたら一番いい。それがないにしても認知率がどれくらい上がったかみたいな中間のKPIまで、相関ではなく因果として見られたらいいなと思っています。

 

吉田 バナー広告などもクリック率がわかりますから、ネットで当たり前のことがテレビでもできればということですよね。

 

石井 そういうことです。ただ、昨今のデジタルマーケティングブームでさまざまな指標があるものの、広告のパフォーマンスは基本的にはリーチとコンバージョンで測るべき、というのは自分の考えとして持っています。

 

 

目指すのは、企業の商品力を高める本質的なマーケティング

 

吉田 2020年に「テクノロジーと仕組みの力でマーケティングを民主化していく」という理念のもと、Marketing Demo株式会社を設立して起業されています。現在は主にどのような案件を担当されていらっしゃいますか。

 

石井 マーケティング戦略の立案から実際の広告作りまで、一気通貫で支援しています。入口としては、施策案に関する相談を受けることが多いですね。

この仕事をする中で、本質的に必要だなと思うのは、施策案を変えることではなく、売り物を改めて見つめ直すことだと思うのです。先ほどの「WHO・WHAT・HOW」の話で、つまり誰に何を売るかというのを突き詰めることですね。

例えば、客足が伸び悩んでいた丸亀製麺が、毎朝店舗で打っている手作りのうどんの魅力を徹底訴求することによって、業績がV字回復した話がありました。商品を変えていないにも関わらず、それまでやっていた“キャンペーン商品を打ち出す”のではなく、“今ある商品をアピールする”という原点回帰をしています。これは、自分たちの商品の「売り物」は何か、を改めて見つめ直したことによって出てきた答えですよね。

 

吉田 リーチだけではなく、商品価値やその質的な側面が大事なのですね。

 

石井 最終的には、広告なり、パッケージなり、自分たちの商品の情報に触れた人の「パーセプション」を変えて、購入という「アクション」を取ってもらわなくてはなりません。となってくると、広告量を増やすだけでは不十分で、実際に顧客が目撃し、そこから感じるものを変えていかなければならない。

当たり前のことではあるんですが、自分たちの商品が本質的に提供している価値は何で、顧客が求めているものと重なっているのは何か。これを突き詰めるのは、簡単ではないと思っています。

 

吉田 顧客のニーズを引き出すためには何が必要でしょうか。

 

石井 徹底して頭を振り絞ること、自分もエクストリームに使ってみること、顧客と話すこと、の三点です。

特に顧客との対話に関しては、自分たちの商品を買ってくれている人は何を気に入っていて、そうではない人は何を気に入っていないのか。他にどんなものが好きでその中にどういう統一性があるのか。関係ある話から関係ない話まで、とにかく生の声を聞く必要があります。

アンケート調査を利用している企業も多いですが、アンケートでは生の声はわからないですし、インサイトには到達できない。アンケートは、定性的に発見したインサイトを確かめるために使うのが正しいと思っています。アンケート結果からインサイトにたどり着いたという話を僕は一度も聞いたことがありません。

まだ掘り起こされていないような消費者の課題、すなわちインサイトにどれくらい到達できて、インサイトに基づいたコンセプトを作れるかが今後の要になるでしょうし、そこに着手したサービスを行っていきます。

 

吉田 具体的にどんな仕組みを考えているのですか。

 

石井 端的に言うと、「マーケターがいつでも消費者と会話できる」インサイト発掘ツールです。まず前提となる課題として、企業にとって消費者との会話機会を持つのは想像以上に難しいというのがあります。定性調査は5~10人の消費者と話すのにリードタイムが2ヶ月を要し、コストは平気で100~200万円かかります。

そこで当社は、定額で使い放題、コストも使いやすい価格帯で提供することで、企業側のマーケターや商品開発者がいつでも自分の机から消費者と話せる、そんなプロダクトを作っています。スケジューラーで社内の人とミーティングを入れるくらい簡単に、消費者と話せる世界を作っています。中長期的に機能を付与しながら、より上流の、実際にコンセプトを作れるような領域にもプロダクトで入っていければいいなと思っています。

 

吉田 最後に、石井さんが実現したいマーケティングの理想のモデルをお聞かせください。

 

石井 広告にだけ頼るビジネスモデルから脱却し、商品力を高めていくことです。「仕事をしやすいカフェといえばスターバックスだね」という風に、その領域に旗を立てることが一番だと思いますね。

 

吉田 興味深いお話、ありがとうございました。

 

<了>

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