HOME マーケ 広告は「人から枠へ」回帰する~ 花王株式会社 DX戦略推進センター DXデザイン部 戦略企画室 廣澤 祐さん ~
2021.4.16

広告は「人から枠へ」回帰する~ 花王株式会社 DX戦略推進センター DXデザイン部 戦略企画室 廣澤 祐さん ~

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枠とコンテンツをセットで提供する自由度の高い運用が求められている

 

吉田 広告が「人から枠へ」に回帰してくるとすれば、テレビは最もポテンシャルの高いメディアだと思いますが、現状ではテレビはその優位性をどう使えば良いのか、見えていないところもあるように感じます。
そんな中、運用型広告に近いテレビCMの新しい買い方として「スマート・アド・セールス」なども浸透してきていますが、この動きについてはどう思われますか?

廣澤 テレビ産業やテレビの広告に批判的な意見があがるのは、社会全体のデジタル化が進行している中でビジネスモデルが旧態依然としている点ではないでしょうか。ですから、テレビ側の方たちにとってはスマート・アド・セールスなどの取り組みを通じて、デジタルの運用型広告の仕組みがどうなっているのか、自分たちのビジネスに適しているのかを体験して知るには良い機会になるのではないでしょうか。

一方で、今までは費用面からインターネットの“獲得系”の広告しか選択肢がなかった会社が、少し頑張ればテレビにもタッチポイントを増やせる可能性が出てきたということも挙げられます。テレビ広告も活用しながら顧客を増やし、企業が成長することは、テレビ局にとって次の大きなクライアントになり得るためメリットもあると思います。したがって、商品としてテレビ産業がスマート・アド・セールスを抱えるのは悪くないと思います。

吉田 ビジネスモデルが変わっていないというのは確かにそうで、テレビCMはタイムセールスとスポットセールスが基本メニューというのが長らく続いています。ニーズが多様化している中で広告を売る場所としては自由度がないというのは、放送局の方たちにとって課題に感じられていると思います。

廣澤 番組中のCMにしても、番組間のCMにしても、その前後の文脈を意識した番組編成やCMの企画などが出てくると非常に面白いと思います。もちろんテレビ側の方たちも模索中だとは思いますが。実際にドラマと連動したアドフュージョンのようなものや、地上波で「君の名は。」が放送された時に提供クレジットでスポンサーロゴを入れ替えた取り組みなんかも、最近では見受けられますよね。

番組と連動して、“枠”に合った独自のコンテンツを作ることができるのがテレビ局の強みだと思うので、こうした“枠”の運用がスマート・アド・セールスなどで安価に利用できれば、もっと可能性は広がるはずです。

吉田 テレビ局にはコンテキストを自在に作れるという強みがありますが、それを活用しきれていないのかもしれません。

廣澤 スマート・アド・セールスもひとつのアプローチではありますが、別の観点では、インタラクションの要素が入るとテレビ広告の魅力がさらに引き上げられると思います。

フジテレビの体験型CM「CxMシーバイエム」などは、お客様とインタラクティブになっているという点で従来のテレビメディアになかった面白さだと思いますね。インターネットは画面をタッチして操作するという能動的なモードが前提である一方、そもそもテレビは受動的にただ眺めるだけというメディアでした。それが、CMに対して視聴者側からアクションできることが一般的になったら、テレビのコンテンツの出し方とかあり方が変わってくるのではないでしょうか。

インターネット広告の面白いところは、枠自体もUIによって変えられることですが、テレビの16:9の画角でどこまで許されるかは難しい。それでも16:9で展開できるコンテンツの見せ方とか差し込み方はあるはず。「このコンテンツだから、あえてこの時間帯に出す」などコンテンツと時間帯がセットで提案できるようになると、テレビの優位性が出せるのかなと思います。

吉田 テレビとネットの動画広告で同じものを見ても、ネットで流れる動画広告はストレスを感じる数値が極端に高いことが分かっていまます。一方で、テレビCMは番組の間に当然あるものとして刷り込まれていますし、受動的なモードで見ているのでストレスを感じにくい。見る側のモードが違うため、同じ動画広告であっても受け取り方に大きな差があります。

さらに、最近では「CxMシーバイエム」がコンバージョンするというデータも出始めています。QRコードを1分間画面に出しておけばそこにアクションが起こるというシンプルな気づきによって、デジタルの世界でしかできないと思っていた双方向のコミュニケーションが実現できる可能性が見えてきたというのはありますね。

 

 

フォロワーという新しい指標がメディアに変革を起こす

 

吉田 デジタルを中心としたマーケティングに関わっているなかで、テレビの影響力の大きさを感じることはありますか?

廣澤 インターネットの力は非常に強力ですが、今でもテレビは最強のメディアだと思っています。例えば、視聴率10%の番組の中で自然と商品が紹介されれば、たいていその翌日には店頭の売上は増大しますが、SNSで多少バズった程度で同様の事象が必ずしも起きるとは限りません。

実は、僕は家でテレビをつけっぱなしにしているほどのテレビ好きで、新しくスタートしたドラマは必ずチェックしています。なぜドラマなのかというと、ゴールデンタイムで放送されるドラマはSNSでも話題になりますし、「旬」と言われているタレントさんが出ているからです。

「旬」というのには2つの意味があって、ひとつはどんな人が世間から支持されているのか、もうひとつはメディアや事務所が誰を推しているのかを知るためです。日本ではタレントの話題が好まれる傾向が強いですし、広告との相乗効果にも影響しやすいと感じます。だれを広告に起用するかはマーケティングコミュニケーションにおいても需要な要素です。

吉田 ブロガーやYouTuberを起用したインフルエンサーマーケティングも盛んですが、やはり幅広い世代に知名度があるタレントは企業の顔になることも多いですよね。

廣澤 よくタレントさんが「数字を持っている」という言い方をしたりします。ここでいう数字とは主に視聴率のことですが、今はさらに「SNSのフォロワー数」という別の指標もありますよね。100万人のフォロワー数を持っているタレントさんの発信力は一般的な広告よりも強い影響があります。この“フォロワー”という数字によってメディアとタレントの関係も変わってくるのではないでしょうか。

テレビで認知を上げてフォロワー数が増えたら、その後の活動はテレビなのか、インターネットなのか、タレント自身が軸足を決めることができるようになってきています。もしかしたら、テレビやCMに出演してもらうには、今まで以上にお金がかかるようになるかもしれない。企業としてもそこのパワーバランスを見極めないといけないので、「旬」のタレントの動きはチェックするようにしています。

吉田 テレビのコンテンツ自体についてはどう思いますか?

廣澤 海外ドラマのリメイクなどが増えて、独自性がなくなってきているように感じます。画一的にもなっているという感じも。倫理的な観点からも厳しくなっていますし、SNSを通じて視聴者が直接フィードバックできる環境があるため、昔のように攻めた番組作りをするのは難しいのだと思いますが、テレビ好きとしては残念に思うところはありますね。

 

 

 

マーケティング手法より本質を見極めることが大切

 

吉田 新型コロナウイルス感染症の影響で、生活者の意識や行動にも大きな変化がありました。広告について、今後はどのような方向に向かっていくと考えていますか?

廣澤 2020年は特別な1年ではありましたが、長いスパンで見れば劇的な変化はないと思っています。AIDMAやAISAS、SIPSのように「購買行動モデル」はいろいろ出てきていますが、抜本的な部分はどれも同じ。

繰り返しになりますが、細分化・多様化の流れが加速する一方で、パーソナライズを突き詰めながら利益を出していくのは厳しいですよね。どこかでテクノロジーが飛躍的に進化して、パーソナライズやカスタマイズのコストがかからなくなるくらいまで技術が進歩しないと、利益とニーズのバランスを取るのは難しい。しばらくは、ある程度のボリュームがある層に向けてアプローチしていく形を続けていくことになると思います。

吉田 個人情報の課題もありますし、今後は「パーソナライズを進化させる」というより、「カスタマイズされたマスへの訴求」という流れになっていくといったところでしょうか。購買行動モデルを突き詰めていくことに意味がないというのは同感です。

廣澤 新しいコンセプトやモデルについて勉強し知ろうとすることは素晴らしいと思いますが、言葉に踊らされていては本末転倒だと思います。個人的にはGoogleが2011年に提唱したZMOT(ジーモット)の概念がシンプルで分かりやすいのでよく使っています。店頭に行く前に商品についてリサーチする下調べ段階の意思決定のことで、2004年にP&GのAlan George Lafleyが提唱したFMOT/SMOT(エフモット/エスモット)を発展させたものです。

商品購入における第1の瞬間、First Moment of Truth(FMOT)は店頭に並んでいる商品を見て購入するかどうか意思決定するとき、そして第2の瞬間、Second Moment of Truth(SMOT)はそれを使用するときだと定義。当時のP&Gはこの購買モデルに基づいて、商品力やパッケージ、店頭POPをリニューアルすることで売り上げを伸ばしたとされています。

そして2000年代になり、店頭で商品を買う前に、予めネットで商品を検索する「購入前の商品との接点」、Zero Moment of Truth(ZMOT)があるというのがGoogleの提唱するZMOTです。

吉田 店頭で見かけた商品を衝動的に買うということは以前に比べると少なくなり、ネットで情報を事前に調べてから買うのが当たり前になりましたよね。

廣澤 その後にFirst Moment、Second Momentに対してのThird momentが出てきました。今までは、購入した商品を使った際の感想、体験の感動は個人の中で消化されていましたが、TwitterやInstagramが広まり、体験をシェアするという文化が生まれた。SNSでの口コミやレビューによって商品の価値や魅力が拡散される、これがThird Momentです。

吉田 SNSなどで発信された情報が、商品に興味を持つ、つまりZero Momentのきっかけになることもあるということでしょうか?

廣澤 誰かのThird Momentに影響されることは増えてきていると思います。動機となる「刺激」はテレビCMなどメディアの広告だけでなく、TwitterやInstagramなども大きな役割を果たすようになって、循環するようになった、というのがここ10年の大きな流れです。どんな文脈で検索されるのか、組み合わせは無数にあるため、それぞれのメディアに合った刺激とその方法を模索していくというのが基本路線だと思います。

 

吉田 購買動機である「刺激」として、テレビが果たす役割とはどんなものになると思われますか?

廣澤 テレビの役割として「刺激」の部分は期待できると思います。偶発的にテレビのパブリシティで生まれるものや、テレビCMのように狙ってつくっていくものもある。

「CxMシーバイエム」のようなものは、「刺激」からすぐに購入につなげられるポテンシャルのあるものですよね。例えば、今までだったらテレビCMを流して、商品が検索されてECで購入、といった流れだったと思いますが、「CxMシーバイエム」なら検索はいらない。そのままECサイトに誘導するという発想が出てくると、面白いソリューションが生まれる可能性がありますよね。

 

吉田 「人から枠へ」の流れが強くなってくると、“枠”としてのテレビの存在感、やれること、やるべきことに対しての課題は大きくなっていきそうだと感じました。

本日はありがとうございました。

 

<了>

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