結婚式よりも離婚式で感じるリアル
─寺井さんの企画は一見ジャンルがバラバラなようでいて、人の生活や感情の要に関わるものが多いですね。
人の“素”に対する興味は、試し書きもそうですが、離婚式や涙活にも共通しています。素の部分や本音にしか興味がありません。
知人の結婚式に参加することがありますが、離婚式に慣れてしまうと、言葉は悪いですけど結婚式が嘘っぽく見えてしまうときがあります。離婚式では「離婚したあとも力を合わせてお子さんを育てることを誓いますか?」とご夫婦にお子さんの前で誓っていただくのですが、そのときの「はい」という言葉はすごく信用できる。結婚式の「永遠の愛を誓いますか?」に対する「はい」とは重みが違います。
テレビに対しても同様で、たとえばドキュメンタリーであっても作り手の意図を考えるとどうしても作り物に見えてしまって興味が薄れてしまうことがあります。
─基本的には、エンターテインメント目線で企画を考えていますか?
世間の関心度が一番高いのはやっぱり健康ですよね。今は高齢化社会なのでその意識はますます強くなっていくと思います。
日本一のエンタメ鉄道を目指している銚子電鉄さんとも今後、健康をテーマに何かできないか考えています。銚電さんとご一緒に作らせていただいた「まずい棒」は、作る前からヒットするだろうと思っていましたがオリジナル商品の企業様から怒られないかヒヤヒヤしました(笑)
─でも、悪ふざけではなく真面目に、真摯に向き合っている印象があります。
真面目にふざけるのが重要だと考えています。「パクリスペクト」(パクリ+リスペクト)と呼んでいるのですが、オマージュやパロディの前提には、リスペクトがないとダメだと考えているんです。パクって炎上みたいな事例を耳にすることもありますが、オリジナルに対するリスペクトがきちんと伝わっていれば、また違う結果になっていたのではないかと思います。
“1%の真実味”に人は集まる
─より話題性のある企画を作るために心がけていることは?
「賛否両論があること」は常に意識しています。涙活を「胡散臭い」「あやしい宗教みたい」と言う人も中にいますが、実はそう見られることを意図している部分もあるんです。「程よいうさんくささ」が話題性や魅力につながるからです。
「イケメソ宅泣便」という涙活のコンテンツはまさにそうです。イケメンがオフィスに出張してお客さんの涙を拭うサービスですが、「めちゃくちゃ怪しいけど、なるほど福利厚生を目的とした法人限定のきちんとしたサービス、でも胡散臭い・・・」という絶妙なバランスを狙っています。
この感覚は昔のオカルト番組にも共通しています。「そんなもの本当にあるのか」と99%思いながら、1%どうしても信じたくなる余白がオカルト番組の面白さであり、そこに病みつきになる人も多かったんだと思います。“1%の真実味”に、人は惹きつけられるんです。「本当に離婚式なんてやる人いるの?」「まずい棒なんて、そんな商品作って正気?」と目を疑いたくなるような虚構新聞を地でいってる感じです(笑)。怖いもの見たさにも通じるところがあるかもしれません。
─「離婚式」など言葉自体がキャッチーですよね。何かこだわりはあるのでしょうか?
若い人たちはYouTubeなどで短い動画に慣れているせいか、長時間座って長編映画を観ることが苦痛だという人も少なくないようです。また、複数のSNSをスピーディーに切り替えて操作することも当たり前で、それを考慮すると、わかりやすいものじゃないと興味を持ってもらえないと思います。
昔のテレビは、CM前に「○○(大物芸能人)が、この後すぐ!」とか煽って、面白いものを後ろに持ってきているイメージがありましたが、今の視聴者は待ってくれない。YouTubeでは最初の5秒が勝負でしょう。いつも3秒で人に説明できるものを作ることを意識しています。
熱量が感じられるものは面白い
─今回は【TV2020】という企画なのですが…寺井さんはテレビをご覧にならないとのこと。
YouTubeで昭和や平成初期のテレビ番組を観ることがありますがもう10年近くまともにテレビを観ていないです。世間の情報に触れる機会は試し書き以外だと、ラジオですね。TOKYO FMの「Blue Ocean(ブルー・オーシャン)」を聴いたりしています。
─YouTubeで昔のテレビ番組をご覧になるということは、元々はテレビお好きなんですね。
テレビっ子でしたよ。『やるならやらねば!』とか『風雲!たけし城』、『東映不思議コメディーシリーズ』は、録画してVHSが擦り切れるくらい観ていました。心霊やスピ系の番組も大好きだったのですが、やらなくなってから観るものがなくなってしまい、地デジ化で完全に離れてしまいました。
─昔のテレビ番組のほうが面白かったと思われますか?
改めて『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』を観ると、やっぱり最高ですね。爆破、カーチェイス、ヘリチェイスなど映画1本撮るぐらいの費用がかかっているのではないかと思うものもあります。加藤さんと志村さんが200~300人に追いかけられるシーンとか。たった何秒かのシーンにあれだけのエキストラを集められるなんて、今では考えられないですよね。今はコンプライアンスも厳しくなっているし、資金面もあるんでしょうけど、あの頃の制作者は「面白いことをやってやろう!」という思いが強く、ものすごく熱量を感じます。
あと、今は画質が良すぎますよね。昔は画質が悪かったからこそ心霊写真やネッシーの画にも“1%の真実味”が生まれて、ワクワクするコンテンツができていたと思いますが、今の4Kとかで撮られちゃったら厳しいものがあると思います。謎とロマンの世界は画質がわるいぐらいが丁度良いんです(笑)。スナッフフィルム(殺人記録ビデオ)仕立ての日野日出志先生の『ギニーピッグ』という作品は、画質が悪いのも相まって「本当の殺人映像なのかもしれない」と感じさせる生々しさがありました。あのチャーリー・シーンが「本物」だと勘違いしてFBIに通報したという噂があるほどです。
─寺井さんが今「面白い」と思う人やものはありますか?
いわゆる“エロ本”を作っている人たちに興味があります。今はDVDがメインですし、エロコンテンツがネットで簡単に手に入りますよね。そんな時代にエロ本を作っている人って、ものすごいクリエイターで一流の職人さんだと思うんですよ。
また、同人誌のイベントなどに行くと、作り手の人たちの情熱・エネルギーに圧倒されます。私たちが学生時代に楽しんでいたメディアに近いものを感じますね。『加トケン』やオカルト番組をリアルタイムで体験できたあの時代に生まれたのは本当に幸せでした。
─本日は、ありがとうございました。
<了>