成長の鍵はマーケティングより「土台固め」。 ユーザー満足度を最大化し、メーカーからも共感されるECサイトの極意とは〜@cosme shopping 運営 コスメ・コム 代表 本橋未来さん〜

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成長の鍵はマーケティングより「土台固め」。 ユーザー満足度を最大化し、メーカーからも共感されるECサイトの極意とは〜@cosme shopping 運営 コスメ・コム 代表 本橋未来さん〜

@cosme shopping 運営
株式会社コスメ・コム 代表 本橋 未来さん

コスメ・美容の総合サイトである@cosme。都市部を中心に店舗展開もしており、女性なら誰しも一度は見たことがあるのではないでしょうか。今回お話を伺った本橋未来さんは@cosmeの公式ECサイト@cosme shoppingを運営する(株)コスメ・コムの代表取締役社長。本橋さんの入社以降、@cosme shoppingは毎年前年比40%以上もの売上増を達成してきました。その華々しい快進撃の裏には、どのような戦略があったのでしょうか?


"ごく普通"の20代女子が、コスメ・コムに入社して見つけた勝機

―まずはじめに、本橋さんのご経歴についてお聞かせください。

2009年に楽天に入社し、3年間楽天市場のECコンサルタントとして営業の仕事をしていました。そのあと、コナミデジタルエンタテインメントに転職をして、ゲームのプロモーションマーケティングを2年間担当しました。

その過程で、「やっぱりプラットフォームサイドでECの仕事をしたい」「女性領域のマーケティングもやってみたい」という気持ちが出てきて、コスメ・コム社に転職をしました。化粧品を扱うっていいなという思いもありましたし。...なんだか普通な感じですみません(笑)。等身大の20代女子の経歴って感じですね。

コスメ・コムに入社後、感じたことはありますか?

2014年当時、@cosme shoppingは規模の小さな事業でした。売上規模でいうと今の1/5〜1/6くらいですかね。社員数も少なかったですし。

その中で業界の数字を見ていたら、化粧品のEC化率がかなり低いなと感じたんです。そもそも化粧品は、肌に触れるものですし、同じ商品であっても人によって合う合わないがありますので、ユーザーの「試してから買いたい」というニーズと、ブランドのリアルでの販売を重視する傾向から、楽天やアマゾンといった大手でも取り扱いを充実させるのが難しい状況だったんです。

一方で、クチコミやランキングをみて購入を決断する・・という行為自体はユーザーにとって自然な消費行動です。導線設計や提供する情報の工夫などで成長できる余地は大きいと思いました。また、長年、化粧品メーカーの皆さんのご理解をいただきながら、共に成長してきた当社だからこそ組めることもあるのではないかと思いました。

そして、それが実現できれば、ECでもメディアとしての@cosmeと同じようなポジションとなることも不可能ではないと感じました

―どのような戦略でECの事業を広げていったのですか?

ECというとデジタルを駆使したマーケティング施策が注目されがちなんですが、結局のところは「商売」なんですよね。だからきちんとした土台がないと広がっていかないんです。

具体的なところでは、ユーザーが買いたいものをきちんと提供する、商品ページを充実させるなど、土台を固めることに注力しました。

「ユーザーが買いたいものをECサイトで提供する」というのは、当たり前のようでいて、簡単ではありません。化粧品メーカーはブランディングを非常に大切にしているので、広告クリエイティブやパッケージデザイン・・といったことだけでなく、流通チャネルについても「この商品は百貨店のみで扱う」「この商品はバラエティショップで販売する」などといった戦略があることが多く、ECはその戦略に入っていないこともあります。

でも、@cosmeでは、純粋に「ユーザーからどれだけ支持を受けたか」という観点で算出されるランキングが掲載されている。そこには、デパートブランドも、ドラッグストアブランドも区別がありません。それをみたユーザーは、ランキング1位の商品が欲しいなと思いますよね。でもその1位の商品はECサイトでは取り扱いがなく、百貨店に行かないと買えない。

もちろん、リアルの店舗で買いたいお客さまも多いとは思うのですが、ユーザーニーズは多様ですし、@cosme shoppingでは@cosmeとおなじように、流通チャネルの垣根なく、ユーザーが欲しいとおもった商品がユーザーの望む買い方で買える環境を実現していこうと思ったんです。

メーカー、ユーザー双方向のメリットを追求し、取り扱いアイテムを短期間で2倍に!

―あらためて、@cosme shoppingと@cosmeの関係性について教えてください。

コスメ・美容の総合サイトである@cosmeは、弊社の親会社である(株)アイスタイルが運営しています。@cosme shoppingは、@cosmeと連動している公式ECサイトです。

私が入社した2014年当時は、@cosmeでランキングにランクインしている商品のうち、@cosme shoppingで取り扱いがある商品はわずか30%弱程。

@cosmeでランキングやクチコミをみて購入にいたる行動がユーザーにとって当たり前だからこそ、メディアとしての@cosmeやそこでおこなうブランドのプロモーションと購入をつなげていくことが必要なのだという社内の意識合わせをMTGを重ねるなかで行い、@cosmeの運営や広告部門の方々の協力を得ながら、取り扱い商品を増やすために奔走しました。

―商品ラインナップを充実させることはハードルが高かったのでしょうか?

先ほどお話しましたように化粧品メーカー側のブランディング戦略もありますし、流通規模ではどうしても大手にはかなわない部分もあったので取り扱いを増やしていくのは大変でした。そこで、化粧品に特化した弊社ならではの価値を伝えるようにしました。

また、当時は今以上に、化粧品メーカーは@cosmeに対して「口コミサイト」という認識を強くもっていたので、@cosmeで商品を販売することに理解を得るためにも、当社にはしっかりとした化粧品のデータベースがあり、アットコスメの行動履歴から、ユーザーがどういった商品を比較検討しているのかが分かる。ECに出店すればそれに加えて、ユーザーの購買データも蓄積できるということ。そのデータを活用したマーケティングが可能だということをお話させていただきました。

あとこれも、ユーザーの肌タイプなどの詳細なユーザデータをもっている@cosmeならではですが、細かくセグメントしたユーザーに対して、サンプルの同梱サービスができることを提案したりもしました。@cosme shoppingに出店すると、ユーザーに良い体験を提供できますよということを、繰り返しお伝えしたということですね。

結果、入社当時から2倍近くの@cosmeのランキングに入っている商品の60%弱まで取り扱い商品を増やすことができました。ここまで商品を揃えることができて、やっとプラットフォームとして形になってきたんじゃないかなと手応えを感じています。

ポータルサイト、ECサイト、ストア(リアル店舗)がある強み

―データベースのお話について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

@cosmeと@cosme shoppingは商品情報のデータベースを共有しています。具体的には、商品には共通のIDが振られており、ユーザーが@cosmeでどんな商品を見て、結果としてどんな商品を実際に@cosme shoppingや、さらにリアル店舗である@cosmeストアで購入しているのかといったユーザーの行動履歴をIDから分析し、一元化して見ることが可能です。

―メーカーは、御社のデータをどのように活用されているのでしょうか?

例えば、「自社のブランドを買ってくれたユーザーが、他にはどんなブランドに興味を持っているのか」みたいな購買行動はメーカーさんからは強い関心を持っていただけます。他にも「口コミを読んだ人って本当にその商品を買っているの?」ということは単純に気になるところですよね。

もちろん、ユーザーの動きは多様化しているので、正直「これが購入のトリガーである!」という明確な答えが見つかるとは限りません。でも、「御社の商品を買っているユーザーは意外ですが、実はこんな他社の商品に口コミを書いてますよとか、あの商品を見てますよ、この商品を買ってますよ」といった情報が、ユーザーインタビューなどからは見えてきにくい新しい発見だと思っていただけているようです。

例えば一般に、このブランドの価格帯はこのくらいだから、同じような価格帯のブランドが競合なんだ、という想定をしたりすることがあると思いますが、実は別カテゴリの商品の購買行動をみてみると、自ブランドのユーザーが想定と少し違う価格帯の商品を買っている、という予想と異なるデータが見えてくることがあったりするんです。

ユーザーは全てのカテゴリで同じ価格帯の商品を買うわけではなく、スキンケアは高価格帯のものを選択し、メイクアップ商品はプチプラのものを選ぶ・・といった行動をとることもあるんですよね。

これらの気づきがあるとターゲットの見方が広がるし、マーケティングの方法も変わってくるかもしれませんよね。

―御社がデータを分析し、化粧品メーカーに提供されているのでしょうか?

ご質問から想定されるサービスとは少し形は異なりますが、化粧品メーカーが@cosmeのプラットフォーム上でのユーザー行動を分析し、ユーザーとのつながりを深めていくことのできる「ブランドオフィシャル」というサービスを2018年春から提供しています。「@cosme shoppingに出店すれば、より充実したデータ分析ができる」というところにも魅力を感じてもらえたらうれしいです。

―現状は別サイトになっていますが、@cosmeと@cosmeshoppingを統合させる計画などはあるのでしょうか?

いまはあまり考えていないですね。単に@cosmeにshoppingカートをつければユーザーにとって良い体験が提供できるいうわけではないと私は考えています。単なるECのUser Experienceになってしまったら、却ってユーザーが化粧品のコンテンツに触れる体験を阻害してしまうかもしれません。

メディアとしての@cosmeをハブとして、@cosmeでユーザーがさまざまな化粧品のコンテンツに触れ、そこで欲しいものがあれば@cosme SHOPPINGや@cosme STOREで購入できる。その体験をよりシームレスなものにすることが重要だと考えています。

―これは親会社であるアイスタイルさんの領域ですが、リアル店舗である@cosmeストアの運営もされています。全てEC化せず、あえて店舗を出す目的は何でしょうか?

化粧品って今後もどんどんいいものが出てくると思うんですけど、肌に触れるものですし、実際に試してみたいというニーズが高い商材なんです。だからこそ、ECで気になった商品をもっと深く知るためにリアル店舗に行って使い方を教えてもらうとか、「体験」の付加価値が高まっていくと個人的に考えています。そういうところで、ECである@cosme shoppingと、リアル店舗の@cosme STOREの両方を持っている強みが生きるんじゃないかなと思います。

そういう「体験価値」を大事にした旗艦店「@cosme TOKYO」も今年1月10日にオープンしました。

休日は来店客数が1日1万人を超えるなど、すでに多くのお客様に来店いただいているので、今後はこのお店を拠点に、リアルとネットの両方の強みを活かすようなユーザー体験をたくさん生み出していきたいと思います。

もちろん、在庫や効率を考えたら展示だけで販売はしないといったお店づくりもあるかもしれません。でも、なんていうか...化粧品をリアルで買う体験って、単純に楽しくないですか(笑)?「今買ったばかりのDiorの化粧品を持って歩いていることで気分があがる」みたいな。そういうリアルな体験は、ECとはまた違った価値がありますよね。こういった要素を考えていくことがマーケティングの面白さでもあります。

EC事業本格化の過程を支えた、高い目標設定

―@cosme shoppingにおける改革・成長の過程で、社内の雰囲気に変化はありましたか?

前職の楽天では売上が前年比でプラス40%程度と常に高い目標設定をして、成長を目指すというテーマを掲げていました。一方私が入社した当初のコスメ・コムでは、ECの目標設定が前年比でプラス10%程度というかなり堅実なものだったので「いやいやいや、もっとやれるでしょ!10%じゃ成功体験にもならない規模でしょ!」と率直に感じたんです(笑)。

だから半年後くらいには目標設定を前年比40%増に変えました。目標設定を高くして、それを達成すると成功体験の量もぐっと増えるんですよね。売上が伸びて化粧品メーカーのブランド担当者と喜びを分かち合ったり、ユーザーがたくさん買ってくれる達成感を社内で共有できたり。そういったことを積み重ねていきました。

―ECサイトでの作りで気を付けていることは何でしょうか?

プラットフォームとしてのECサイトでは、ECサイトそのものではなく、そこで販売されている商品を際立たせることが大事だと個人的には感じています。ECサイトそのものの個性が出すぎるとブランドのイメージとの相性が出てきてしまうので、@cosme shoppingはできるだけフラットな印象になるような作りを意識しました。

また、先ほどお伝えした通りデータベースが@cosmeと連携しているため、ちょっとした仕様変更でも想定以上に影響範囲が大きいこともあるので、日々トライ&エラーの繰り返しです。

化粧品業界の現状と@cosme shoppingの今後

―他業種から転職されて感じた化粧品業界の特性などはありますか?

面白いなと思うのは、大きな化粧品メーカーだと高級ブランドからプチプラブランドまで幅広いブランドを擁していることです。多いところだと、数十ブランドブランドも持っていたりするので、そうなるとターゲットも多種多様になりますし、その意味でも化粧品メーカーのマーケティング力はすごいなと思います。

一社でいくつものブランドをもち、それぞれにブランディングを手掛けているわけですから。ブランドを何十年も続けていくために、コンセプトや軸を大切にされていたり、ひとつひとつの判断を慎重にされているなと感じます。

どんな場所で商品を販売するか、ということもブランドイメージを左右する要素ですから、共にブランドを守り・育てていくパートナーとして信頼いただくために、出店の商談も年単位の時間をかけることはめずらしくありません。

―自社でECを立ち上げるブランドも増えていますが、それが理由で@cosme shoppingの出店を取りやめる、などということはありますか?

ゼロではないですね。化粧品メーカーはユーザーとのコミュニケーションを強化してリピーターを作る、というビジネスモデルを大事にしているので、ユーザーと直接繋がりたいという想いを当然持っていらっしゃいますから。

ただ我々としては、化粧品メーカー独自のECと@cosme SHOPPINGが競合するものだという考えは持っておらず、@cosmeで商品のクチコミなどを確認して、その後、化粧品メーカーのECサイトで買うのもいいし、@cosme shoppingでいろいろな商品を比較しながら買うのもあり。ユーザーの買いたい方法で買いたい商品を買いたいときに買っていただける環境を用意することが役割だと思っています。

また、繰り返しになりますが、ブランドには、美容領域特化型のプラットフォームであるからこそ蓄積できる、総合プラットフォームやメーカー単独のECサイトでは得にくいユーザーデータやそれらを活用したユーザーとのつながり方、といったものを提供していきたいです。

―今後取り組んでいきたい分野などはありますか?

化粧品に特化した弊社ならではのサービスを拡大していきたいです。わかりやすいところでいうと、ユーザーへのギフトサービスや、サンプルを使ったコミュニケーションは早急に強化したいですね。ユーザーとブランドがつながる手段をふやしていくことで、ユーザーに良い体験を提供し続けていきたいと思っています。

あとはさっき少しお話をしたECとリアル店舗の連携です。ECサイトの@cosme shoppingとリアル店舗の@cosme ストアは別々に成長をしてきた背景があり、まだまだ併用率が低いです。一方、数は少ないながらもその2つを併用してくれているユーザーは、EC・店舗共に利用会するが圧倒的に多いんです。だからよりシームレスな買い物をしていただけるような仕組みを整えていきたいですね。来年にはそのあたりを重点的に取り組んでいきます。

―年に一度の@cosmeのセール「@cosme Beauty Day」も良質なユーザー体験を増やす一環なのでしょうか。

2018年に、@cosmeが誕生した12月3日に、1日限りのコスメのお祭りと称して公式通販セール「@cosme Beauty Day」を初めて開催しました。単純な値引き...ということではなく、様々なブランドにご協力いただき、ここだけで買える限定品の復刻商品を用意するなど「買い物の楽しさ」を体験していただくイベントとして企画しています。

初年度は約3億円の売上を達成しましたが、2年目の2019年は更に成長し約5億円の売上となりました。限定品などの協賛ブランドも200以上と前回の5倍に増えました。より多くのブランドに参加いただき、より多くのユーザーに喜んでいただける、更に良い形の@cosme Beauty Dayを模索していきたいなと考えています!

―最後に、EC事業をやっていく上で大事なことってなんでしょうか?今後ECサイトを立ち上げる方々にアドバイスをお願いします。

さきほどもお話ししましたが、ECというといかに効率的なマーケティング施策を打つか...というようなことに目が向きがちな傾向があるなと思っています。しかし、結局なによりも大切なのは土台をしっかり固めることです。

例えば、データベースをしっかり作る、品揃えを充実させる、物流面を整える、決済方法を充実させる。あとは、ユーザーが購入を決断するための情報をしっかり提供することも重要です。わかりやすい商品画像を使っているか、実物と写真の色味があっているか、成分がちゃんと書いてあるかなど...。

ひとつひとつは細かいですが、その辺の土台が整っていないと、ユーザーが購入を決断できず機会損失につながったり、後々のカスタマー対応が大変になったりしてしまいます。ユーザーを知り、ユーザーに良いサービスを提供するために必要な土台は何か、それを改善し続けることが大事だと考えています。

―とても貴重なアドバイスありがとうございます。本日はありがとうございました。

<了>


@cosme shopping 運営 株式会社コスメ・コム 代表 本橋 未来さん
2009年楽天に入社。ECC(ECコンサルタント)として3年間勤務。12年に入社した(株)コナミデジタルエンタテインメントでは、マーケティングを手掛けた。14年、(株)アイスタイルに入社。18年7月、コスメ・コム社長に就任。

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