放送と通信の‶いい所取り”
―テレビ番組のネット展開について、アイデアをお聞かせください。
『北海道独立宣言』は、テレビで放送した直後にYouTubeにも載せるという流れでしたが、その逆もアリだと思います。番組の立ち上げに関していうと、テレビ局だと4月や10月の改変期以外には考えにくいところがありますが、ネットはもっと自由。YouTuberは動画を載せようと思えばすぐに載せられますが、テレビだとなかなか難しい部分があります。この性質の違いを考えたら、たとえばシーズン1はYouTubeでいろいろやってみて、それが好評だったらテレビ放送に…という流れもできてくるんじゃないでしょうか。
─御社として取り組んでいることはありますか?
中京テレビでミニ枠のベルトを制作させていただいていて、この番組はYouTubeに載せることを前提でやっています。深夜1分40秒のミニ枠で、『100TAINER(ハンドレッドテイナー)』という番組で、100秒間でエンターテイナーを紹介しています。テレビでためていったものをYouTubeに出した後にヒットすることもありますからね。ネットからのスタートだったら、その順番はもっとランダムになってきますけど。
また、YouTubeのチャンネル制作や著名人のYouTuber化のお手伝いもしています。会社として推進していこうという意識が強いです。我々も広告を売りながら、テレビやラジオとネットをどう組み合わせて、よりマスに拡散させるか、ブームや話題を作るか…という部分を、ぜひ重点的にやっていきたいと考えています。
─そういった事業に対する評価や反応はいかがですか?
YouTuberさんが自身で構成企画を立てて作る番組と、我々がテレビ番組を作るように作るYouTube番組では、若干違いがあるなと。演出やテロップはYouTuberっぽく作るのですが、やはりメジャー感や安心感があると言っていただけることはあります。テレビの安心感を少しYouTubeに持ってくるような‶いい所取り”みたいなところに、割と良い反応がありますね。
広告に関しては、テレビCMよりも価格が安いとか、有名人にタイアップをとって作った動画を制作できる、というメリットがあります。広告っぽくない仕上がりにできるところもいいんですよ。本人発信みたいな見せ方になるので、‶脱広告”的な部分でも時代に合っているんです。従来の広告とのバランスが難しいですが、時代のスキームに合わせた一つのソリューションなのではないでしょうか。
―テレビにも精通されていることが強みですね。
テレビとネットが混在する過渡期のなかで、「はじめてYouTubeをやる」となったときに、それを任せるって事務所にとっても勇気が要ると思うんですよ。手前味噌になりますが、弊社代表の佐藤はとても広い人脈を持っているので、立案から制作、運営までをサポートすることができます。一定のルールにはテレビに似たような信頼感があり、出演者も著名人の方なので、その点も安心していただけますしね。
中立の立場から見る‶テレビの価値”
─放送と通信は逆転していくと思いますか?
若年層がどんどんYouTubeのほうに流れているので、今はまだテレビが強い‶認知”の役目も、6秒の動画広告が取って代わる時代が、近い将来に来るかもしれません。今は年代別とか細かい分類がないから見えていないだけで、もしかしたら小学生や中学生は既にそっちなんじゃないかとも感じています。
だからこそ、テレビ局の強みである資本力や制作費があるうちに、YouTubeの戦場にどんどん乗り込んでいくべきなのではないでしょうか。今はテレビが形式上それを拒んでいる印象が若干ありますが、もっとそこに踏み込んでいいと個人的には感じます。フィールドが違うので、キッズYouTuberの作った動画がテレビディレクターの作った番組より注目されるという現象も起きていますが、さすがにテレビもコンテンツ軸なら負けないと思いますし。
役割の違いはありますが、我々が「これからはテレビよりYouTubeだ」と思うことは、今後も引き続きありません。今は広告についても、商品を初めて知る機会がYouTubeだったというケースが当たり前になっていますが、テレビとYouTubeのどちらかを選ぶというよりは、どちらにも入っていくような方向性になっていくでしょう。
─テレビがより積極的にネットに進出していくために「こうしたほうがいい」と思うことはありますか?
私は制作ではないので内容については何も言えませんが、『北海道独立宣言』のように、テレビで放送したものをすぐにネットで見られるようにしたらいいと思います。ここが一番大きいです。だって、それで視聴率が低くなることなんて多分ないでしょう?そればかりか、ネット利用者がテレビ番組を知るきっかけになるんです。
テレビ視聴率が下がることでテレビ自体の番宣効果も減っていくという負のスパイラルに陥ってしまうより、せめて番宣機能だけでもYouTubeに持っていくのは全然アリだと思います。番組の尺の長さにしても、もっと自由でいいのではないでしょうか。テレビ局にいたときは、30分や15分、55分とかの制限を当たり前に受け入れていましたが、今は「何でそうなんだっけ?」と思うところもあります。
─ネット動画が盛り上がるなかで、現在のテレビの価値は何だと思いますか?
『北海道独立宣言』をやっていて感じたのは、地域活性の新しい形になったかもしれないということです。テレビ放送がきっかけでレストラン運営のサポートに名乗りをあげてくださる方がどんどん出てきたり、地元でもその土地が有名になったりしますから。でもやっぱり、テレビ局が儲かっていないとそういうプラスの連鎖は続かないし、テレビが苦境になればなるほど、報道や制作がやりたいことと営業の方向性が二極化して噛み合わなくなっていきます。私はどちらも経験していて、微力ながら放送局の気持ちがわかりますので、そういう意味では普通の広告会社よりもお役に立てるかもしれないと思っています。
ネットワークを駆使して話題性を創造する
─これからの御社の展望をお聞かせください。
2020年に5Gの提供が始まると、さらに動画が溢れる世の中になって、動画制作や運用を担う業界でも淘汰が始まってくると思うのですが、今はまだ単純に動画を‶埋もれさせない”ことが第一です。インフラとSNSの爆発的な発展を背景に、広告主のニーズが広がっているなかで、‶埋もれさせない“ためには動画のエンタメ性や話題性がより重要になります。
我々の根底には、エンターテイメントを通して世の中を面白くしたいとか、世の中のためになりたいという思いがあります。もちろん仕事の9割は制作なのですが、ただ作るだけではなく、エンタメ性や話題性の部分で強化・差別化を図っていけたら、非常に弊社らしい成長の仕方になるのではないかと思います。また、今はテクノロジーを駆使しないと面白いものが作れないし、人に届かないという問題もあるので、HPで謳っている‶テクノロジーの活用”も進めていきたいです。
─塚田さんがいる広告の部門でも同様ですか?
たとえばハウツー動画を専門的に作る集団とかも、それはそれで面白いのですが、我々が目指しているのは違っていて。私の所属はマスマーケティング部なのでテレビやラジオが中心になりますが、引き続き話題となるものを作っていきます。そのためには資金も必要になりますが、話題になることで、顧客、テレビ局、そして我々にも得るものがある。ここ2~3年くらいの間は、特に注力して‶話題性をもったもの”を作って提供し、成し遂げていくことが重要だと考えています。
─アイデアや企画力も必要になりますね。
アイデアが次々に思い浮かぶ天才というのもあまり見たことがないので、まずはいろいろやってみることが一番かな、と思います。いろいろな番組や動画を作ってみることはもちろん、今はインフラがたくさんあるので、いろんなところに出してみる、いろんな人とやってみるとか。弊社の代表がネットワークを作るのが非常に得意なので、インフルエンサーやクリエイターのネットワークを駆使して、多様なものをご提供できると思います。天才が何人もいてアイデアがたくさん集まるというよりは、いろんなネットワークを組み合わせることでアイデアが生まれていくようなイメージですね。
─本日はありがとうございました。
<了>
株式会社FIREBUG Business Content Div. Mass Marketing Dept. 執行役員 Vice President 塚田 晃作(つかだ こうさく)
株式会社FIREBUG Business Content Div. Mass Marketing Dept. 執行役員 Vice President。マスマーケティング部所属。1977生まれ、東京都出身。2000年に入社した北海道文化放送で多分野にわたるキャリアを積み、2017年にFIREBUG入社。代表取締役CCOの佐藤詳悟氏とは大学時代から交友があり、その縁で入社に至った。テレビCMを中心とした業務に携わりながら、執行役員として会社全体を見る役割も担っている。