最適でタイムリーな情報発信と、‟LTV向上"に繋がるデジタルマーケティングを アサヒビール株式会社 デジタルマーケティング部 田村真基さん

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広告・マーケティング
#デジタル #マーケティング #広告
最適でタイムリーな情報発信と、‟LTV向上

アサヒビール株式会社 デジタルマーケティング部 田村真基氏



メーカーやリテール企業にとって、消費者との顧客接点作りは長年の課題ともいえる。アサヒビールでは部署間でタッグを組み、より効率的なデジタルマーケティングを通じたアプローチを行っている。現場営業経験や社外武者修行で得た知識をもとに、‟ LTV向上"につながるためのデータ獲得、そして情報発信に挑むデジタルマーケティング部の田村 真基さんに話を伺った。


営業に邁進する4年間を経て

―これまでのご経歴をお聞かせください。

2010年4月にアサヒビール株式会社に入社して、その年の9月から4年間は大阪で飲食店さんやお酒屋さんを回る業務用営業をしていました。その後、当社の「社外武者修行」という制度を使って、2014年の9月から1年間、大手インターネット広告会社に出向することになりました。1年間社外で修行をさせていただいた後、2015年9月にアサヒビールに戻ると同時にデジタルマーケティング部に入り、現在に至ります。


─現在所属されているデジタルマーケティング部の業務内容は?

ホームページの更新、LINEやTwitter等SNSの運用全般に携わっています。LINEのメディアも担当することになってからは、LINEを使ったデジタルプロモーションの企画をしたり、営業と一緒に商談に行ったりすることもあります。

広告はあまりやっておらず、オウンドメディアの運用が中心です。


─業務用営業時代はどんな毎日を過ごされていましたか?

午前中は担当市場にあるお酒屋さんを回り、商品の案内や情報収集、担当の飲食店さんで昼食を食べ、その後も市場を回ります。15時くらいから飲食店さんを回って、ここがピークタイムですね。17時半くらいに一旦会社に戻り、車を置いてから視察に出かけます。

実際の営業現場を見て、なにか新たに提案出来る糸口を探したり、店主の方とコミュニケーションを図ったりします。担当していたエリアは大阪府の京阪沿線あたりで、お得意様の数で数百店にのぼります。


─出向の経緯について教えてください。

入社から4年間ずっと業務用営業に邁進した結果、ふと立ち止まって自分を見つめ直してみたくなりました。昼は人に会って夜は飲む...という生活が続いていたので、何かを勉強するのに時間を割くことが難しく、「4年間同じように社会人をやってきた人たちと比べて、自分はどうなんだろうか?社会人として足りないものは何なんだろうか?」と不安になったんです。

入社後、会社からキャリアデザインを問われたらずっと‟営業"と書いていましたが、5年目で「会社を出たい」と思うようになりました。「社外武者修行」という制度があることは知っていたので、一度アサヒビールという会社や自分のやってきたことを俯瞰的に見てみたいと思い、希望を出しました。



働き方が変わった社外武者修行時代

―出向先の大手インターネット広告会社ではどのような業務を担当されたんですか?

広告企画部という、広告商品の企画立案・販売推進を行っている部署に配属されました。母の日、父の日、クリスマスなど‟世の中ゴト"のイベント時に、それぞれ企画を立ち上げ、各企画ごとの売上目標を達成するために商品の構成や枠組みを考えます。

企画が始まった後も、誘導が足りなければどこから引っ張ってこようとか、流入と吐き出しについての誘導調整をタイムリーに行うといった業務をしていました。


―これまでと全く違う業務内容ですね。

業務用営業時代は一日中椅子に座っていることは皆無でしたが、今度は逆に外にでることが無くなりました。何回か「営業商談に行かせてください」と言って、数回営業同行をさせてもらいましたね(笑)。あとはずっと座って企画を作ったり、運用をしたりという日々です。

ただ、約1年という短い期間でしたが、この1年間でアサヒビールに居続けるだけじゃ絶対に学ぶことのできない、とてもたくさんのことを学ばせていただきました。今でも行って良かったなと思っています。


─初めて携わるお仕事で、戸惑いも多かったのでは?

最初の数ヶ月は結構しんどかったですね。打ち合わせに出ても何を話しているのかわからないことも多く、ほぼネットで調べていました(笑)。それでもわからないこともたくさんあったので、その時は周りの人によく聞いていましたね。周りは親切に教えてくれる雰囲気でしたので。

最初の数ヶ月はずっとインプットをしていたような感じです。社外武者修行は基本的に1年と言われていたので、1日1日が本当に貴重な時間なので、日々最終ゴールを意識しながら過ごすようにしていました。「ゴールが見えている状態で働く」というのは、社外武者修行時代に初めて体験したことですね。


─その中でご自身に変化はありましたか?

一番大きな変化は、働き方に対する意識が変わりました。「限られた時間の中で成果を出すためには、意味のないことをしている暇はない」ということを強く思いました。また、自分で調べてもわからないことや、理解しきれなかったことは、誰彼かまわず積極的に質問しに行きました。わからないことをわからないまま悩んでいる時間が無駄なので、こういう点が業務の効率化につながっていたような気もします。

それに、会社としての考え方や企業風土については、武者修行先の会社から学ぶことや感銘を受けることも多かったです。


─風土の違いとは、具体的にどういうところですか?

書類ひとつにしても、うちはまだまだ紙が多かったのですが、武者修行先の会社はほぼペーパーレス。その会社は、私が武者修行に行ったときはまだ設立から20年も経っていないような時期だったので、色々なことが当社よりフレキシブルでダイナミックなイメージでした。

また、競合他社から来た人がたくさんいるなど、我々の業界では考えられないようなこともありました。市場との向き合い方も当社とは違い、武者修行先では「競合他社と戦うのではなく、一緒になって、インターネットビジネスの市場を広げていく」という考え方が強かったように感じました。

ビール業界にいると、競合他社とのシェア争いに勝つという考え方になりがちですが、‟市場を広げる"ということを意識すれば、違う打ち手を考えられるなということを感じました。



デジタルマーケティング部の意識改革

─出向の後、アサヒビールに戻られてからのことをお聞かせください。

武者修行先での経験を活かすべく、デジタルマーケティング部に配属されました。基本的なインターネットまわりの知識は身についていたので、入りはそんなに苦労しませんでしたが、同じデジタルを活用する仕事でも、会社の立場の違いからギャップを感じることもありました。

アサヒビールはメーカーとして‟物づくり"でお客様に商品を届ける会社、インターネット広告会社はプラットフォーマーでメーカーとは違った仕事内容なので、当然デジタルに対する考え方も異なりました。


―デジタルマーケティング部について教えてください。

僕が入った頃は10名弱の部署でしたが、現在は15名。配属当初は洋酒のホームページやFacebookの運用を担当していました。そこからTwitterやInstagram、2~3年前くらいからLINEを担当するようになりました。

2018年まではオウンドメディアの運用を中心に行っていたので、あまり営業現場に携わる機会はありませんでしたが、今年からは営業現場にも積極的に足を運ぶようにしています。SNSと連動したデジタルプロモーションの提案のため、量販・業務用どちらの営業商談にも同行したりしています。


─営業現場との連携が活性化したのは何かきっかけがあるんですか?

最近になって顧客の実購買のデータを活用した1to1コミュニケーションや、CRMの必要性が高まってきたことが起因しています。今までも顧客のアンケートデータ等はありましたが、アンケート結果だとどうしてもバイアスがかかってしまったりと、信憑性に欠ける部分もあって、それらを払拭するために「実購買証明を活用したキャンペーン」を実施しました。

商品毎のユニークなコードをLINEで読み込んでもらったり、商品を買ったときのレシート画像や商品を飲んでいる時の写真を送ってもらうだけというシンプルなキャンペーン参加方法を取り入れています。アンケート等では取得出来ないデータを集めることで、実購買データをKeyとしたCRMを推進することが目的でした。

2017年頃までのデジタルマーケティング部は「いかにオウンドメディアの顧客を増やすか」を目標に活動しておりましたが、今は顧客データを蓄積し分析を行い、個客ごとの最適なコミュニケーション・CRMを実現し、LTVの向上を目指すところまで担うようになり、当部のタスクの幅が拡大してきています。

一方で、流通側も、デジタル技術を活用して自チェーンや店舗を利用いただいている顧客を囲い込み、継続的に購買していただくような取り組みに対するニーズが高まっており、当社のデジタルマーケティングの取り組みと合致するケースが増えてきたことが大きいと思います。


―データの分析はどうやってされているのですか?

CDP(Customer Data Platform)とBIツールを活用しながら外部パートナーに委託しつつ、当社の担当者も一緒にやっています。 取得したデータの傾向を把握した上でどういう情報発信やプロモーションをしていくかを考えるのが目的で、そのためのデータ収集・分析を必死にやっている段階です。

大まかなデモグラフィックデータと、量販店での実購買や外食利用等の行動データを組み合わせながら、各コミュニケーションやプロモーションごとに使い分けをしています。


─データ収集に関する方針はありますか?

過去には色々な議論もありましたが、最近は「見るべきものは‟LTV"」という考え方が徹底されてきています。

我々の考えたデジタルプロモーションや情報発信によって、どれだけブランドユーザーが増え、LTVが向上し、アサヒビールやブランドのロイヤルユーザー(=ファン)になっていただいているかを日々検証しながらOODAループを回しています。

CPCやCTR、リーチ数等の中間指標を積極的に求めていた頃は、社内で我々だけ違うものを追っていたような気がします。しかし、ブランドユーザー数やLTVをKGIとしている現在は、今まで以上に営業現場と足並みを揃えて物事を考えられるようになりました。

収集するデータに関しても、CRM戦略のGOALであるブランドユーザー数やLTV、ロイヤルユーザー数につながり得るデータを選別して収集し、CDPで管理しています。

キャンペーンで実購買データを得る

─先ほどお話に出た「実購買証明を活用したキャンペーン」の詳細を教えてください。

量販ではレシート写真や、缶ビールや缶チューハイについたキャンペーンシールに記載されているコードをLINEやSNSを使って送ってもらう型式、業務用では商品画像やレシート写真を同じくLINEやSNSを使って送ってもらう型式です。

購買行動をきっかけにして顧客とつながり、データを収集・分析・活用しながら1to1コミュニケーションでCRMにつなげ、LTVを上げていくことを目的としている点が従来のアナログ型式のキャンペーンとの違いです。

量販のレシートを活用したデジタルプロモーションは量販統括部と一緒に考えたキャンペーンで、過去3回程実施していまして、年内もあと何回かやる予定です。回を重ねるごとにキャンペーン参加者数も増え、売上にも効果が出ています。

多くのお客さんに参加してもらうためには、対象チェーンの数が多くないとダメなので参加していただけるよう商談に行くのですが、チェーンにも継続的な売上効果を感じてもらっていて、かなり参加チェーンも増えてきました。


─集めたレシートを収集する仕組みは?

郵便でも受け付けていますが、レシート写真をLINEで送信してもらうだけでOKです。1回目まではWEBアップロードでしたが、2回目以降はお客様のユーザビリティを考え、LINEのトーク画面で完結できるようにしました。


─量販統括部とタッグを組んだきっかけは何だったのですか?

デジタルマーケティング部がやりたいことと、量販統括部が持っていた課題感が一致したことです。我々は実購買をKeyにして顧客とつながり、CRMによってLTVを上げたい。量販統括部は従来から実施していたハガキを活用したレシートキャンペーンに対し、ハガキがもったいない、思うように集客が伸びない、流通からのデジタルを活用した継続購買型のプロモーションのニーズに応えたい等の課題感を抱いていました。

そのような状況の中、昨年の春頃に「一緒にやりますか!」となりました。これを機に流通協同型のCRMの要素が生まれ、より現場向きになってきた感じです。この流れに乗り、業務用(飲食店さん)向けにも、今まで使いこなせていなかったデジタル資源を上手く活用して展開していきたいと思っております。


─実購買データは順調に集まっていますか?

徐々にデータ量も増えてきていますが、まだまだ増やさないといけませんね。より多くの人にキャンペーン参加していただくためにどうしなければいけないか?他にどういった方法でデータを増やすことが出来るか?が、これからの課題です。



秘訣は相手をイメージすること

―キャンペーン参加者を増やすための施策はありますか?

インターネットやスマートフォンの普及により情報が溢れかえっているこの世の中で、我々が発信するキャンペーンの情報を見てもらい、参加していただくことはかなり難しくなってきていると感じています。

お客様一人ひとりにとって最適な情報を、最適なタイミングでお届け出来るかが鍵だと思っております。

マス広告で大きくリーチを取り、デジタルを使って最適な情報配信を行う。この両輪のサイクルを上手くまわすことが、コンバージョンを最大化するのに重要ですね。


―ターゲティングはどのように?

プロモーションごとに顧客データを活用して、ご案内するお客様を決めています。また、お客様ごとに内容もクリエイティブも配信の時間帯も変えています。一人ひとりのよく飲むブランドや、購入頻度によって出し分けをしています。

ただ、肝心のデータをいかに増やすか、いかにデータ処理の工数を短縮するかという課題もありますので、日々このあたりをどうクリアにしていくかをみんなで議論しています。


─キャンペーンの企画自体は何か工夫されていますか?

お客様のUXに徹底的にこだわっています。キャンペーンごとにログデータやお客様からの生の声を確認しながら、いかに「‟ストレスなくスムーズで、お得で楽しい"ユーザー体験」をしていただくかを大事にし、改善を重ねています。


デジタルマーケティングの可能性

―SNS全般に関して伺います。エンゲージメントを上げるコツはありますか?

TwitterやInstagramなどのSNSに関しては、「新たな価値を生み出す簡単な気付き」を提供すると、わりと共感され、情報が拡散されたように感じます。たとえばウイスキーをアイスクリームにかけたらめちゃくちゃ美味しいとか、そういうネタは反響が大きく、WEBメディアでまとめ記事を作ってもらったりもしましたね。

お客さんが簡単に試すことができ、なおかつ「美味しい!」、「誰かに伝えたい!」といった価値のある情報を発信することが大事だと思います。とはいえ、いつでもひらめくものではなく至難の業なので、月に1本2本狙うくらいの感覚でやっていました。見ている人がどう感じるかということを意識して、SNS上で一人でも多くの人に共感してもらうためには‟どう伝えるのがいいか"を常に考えていました。


─今感じているデジタルマーケティングの課題を教えてください。

顧客の数と、データの量と質が向上すれば、もっといいコミュニケーションができると思います。世の中に広告を含めたデジタル情報が多数ある中で、いかにアサヒビールの情報をお客さんに見てもらうか。そのためにもデータの量と質を上げて情報の内容やタイミングを精査していきたいです。

顧客一人ひとりにとって最適な情報とタイミングについては、データの質と量を上げていくことでより精度が上がるはずなので、「アサヒビールからは、いつもいい時にいい情報が来るな」と感じてもらえたら最高です。これはマスでは限界がありますが、デジタルならやれますし、‟LTV"につなげるためには突き詰めてやる価値はあると思います。

TwitterやFacebookだと1対Nの情報発信が主軸であるのに対して、LINEは1対1でコミュニケーションができるので、LINEに携わってからますます1to1マーケティングの重要性を意識するようになりました。


─AIの導入なども検討できそうですか?

AIを活用した1to1コミュニケーションの最適化の取り組みを開始したところです。コミュニケーションやプロモーションの「ターゲティング」と「タイミング」の精度向上に向けて、試行錯誤しながら運用しておりますが、徐々に手応えを掴み始めております。

昔見た『マイノリティ・リポート』という映画で、印象に残っているシーンがあるんです。ショッピングセンターに入ると、ディスプレイから赤外線みたいなものが飛んで、目の認証だけで店頭のディスプレイが「○○さんいらっしゃい。今日はこれを買うでしょ?」って言うんです。

IDさえも不要で、瞳孔で個人を特定して、その人に最適な提案をする。いつかそんな時代が来るのかなと思うとワクワクします。


営業に使えるデジタルとは

─LINEを戦略的に活用されていますね。

「今、世の中で最も使われているSNSは何か」を考えると、利用者が8000万人まで到達したLINEを使わない手はありません。ただ、LINEだけに特化するわけではなく、世の中の人の動きと、お客さんのニーズを掴んで最適な情報を最適なメディアでお届けすることが最も、‟LTV"に結び付くと思っています。

時代の変遷によって使われるSNSも変わってきます。各種SNSアカウントの登録者の‟LTV"の検証もタイムリーに分析できるようになってきているので、効果の良し悪しに合わせてSNSも使い分けていけたらと思います。


─今後の展望についてお聞かせください。

僕は営業現場が好きなので、現場にもっと使ってもらえるようなデジタルプロモーションを生み出したいと思っています。いいプロモーションを企画して、しっかりと流通とWin-Winの効果を出し、営業現場で横展開できるようなものを生み出していきたいです。データをもっと上手く活用することで、今までとは違ったやり方で量販チェーンや飲食店さんに貢献することができると信じています。


─お客さん側のニーズの高まりは感じますか?

営業現場では「LINEを使った新しい販促の提案をください」と求められるケースが多くなってきているようです。

今後スマホによるキャッシュレス決済や、ポイント還元に対応する流通が増えていく中で、店頭プロモーションのデジタル化のニーズはますます高まってくると予想しています。

常に最新のデジタルテクノロジーをキャッチアップしながら、流通とWin-Winの取り組みを実現できるよう、これからも進化し続けていきたいと思っています。


─本日はありがとうございました。


<了>




アサヒビール株式会社 デジタルマーケティング部 田村 真基(たむら まさき)

2010年4月の入社から4年間、大阪で業務用営業として営業経験を積む。2014年9月より「社外武者修行制度」を使って1年間大手インターネット広告会社へ出向。約1年間の社外経験を経て2015年9月にアサヒビール(株)に戻り、デジタルマーケティング部に配属。顧客にとって常に最適なコミュニケ―ションを意識しつつ、またデジタルと営業現場の関係性を密にしながら、流通とWin-Winの効果を得られる企画やプロモーションを生み出している。

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