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2018.11.6

スマホ世代の人々に、良質な情報を届けるためのマーケティング戦略 スマートニュース 株式会社 西口 一希さん

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“旧リアル”と“新リアル”のパラレルワールド

―西口さんが入社してから今までの間で、ニュースアプリというジャンルを取り巻く環境で「ここは変わってきたな」とか「難しくなってきたな」と感じられるところはありますか?

世の中は完全に2つの世界に分かれつつあると思っています。私はパラレルワールドと呼んでいるのですが、スマホを1日に7、8時間も使う若い子たちの“新リアル”と、スマホは連絡手段に過ぎないような40代以上の“旧リアル”という2つの世界。”新リアル”の子たちはスマホの中に住み始めているんです。渋谷の交差点にいる17、8歳の若者と、40代のサラリーマンは物理的には同じ空間にいますが、見えている世界、住んでいる世界は違うと思っています。

若い子はずっとスマホで誰かとつながっていて、そこにつながっている友だちや情報を通して世の中をとらえている。一方、上の世代の人たちにとって、スマホは連絡手段でしかありません。2つの世代が共存するなかで、スマホの世界はどんどん拡大している。私たちデジタルビジネスの人間は、やっぱりスマホに住んでいる人々ということになります。

スマホの世界の怖いところは「フィルターバブル」といって、情報のルートが偏向するのでバイアスがかかっていて、世の中の正しいニュースを知らない人が多いこと。友だちの話とかフェイクニュースを鵜呑みにする人が非常に多いんです。そういう意味で、スマートニュースがやろうとしている「スマホを通じて生活に役立つ正しい情報を発信する」ことの意義は、とても大きいと実感しています。

あと、おもしろいのはベンチャーの経営者って海外の人も含めて、純粋に「新しくておもしろいものを作りたい」という思いだけでやっています。彼らは”旧リアル”を再定義しようとしているんです。一般人がタクシーのように他人を送迎するUberもそうですね。「不便だからこうなったらいいよね」というもので、昔あったものをゼロベースで再形成したらこんなふうになった、という感じです。「メルカリ」もそうです。「SmartNews」も、「いろんな情報が手元にあったら便利だね」という思いを突き詰めたもの。“旧リアル”をやっつけようという気はさらさらありません。結果として、デジタルで”旧リアル”世界の全てが再定義されると思います。

“旧リアル”には時間・感情・距離の面でフリクション(摩擦)がありますが、”新リアル”はこれをゼロにしてしまう。スマホの世界はどんどんフリクションをゼロにする方向で動いていて、世の中を再定義しようとしているんです。そんななかで、”旧リアル”のビジネスをもう一度、ゼロベースで見直す必要があるのではないかと思います。”旧リアル”で経営に携わっている人は、頭ではそのことをわかっていても、”旧リアル”の世界にいると再定義する意味がわからないのかもしれません。

たとえば、”新リアル”にいる人は「今日、会議に間に合わないから『Googleハングアウト』で参加しよう」もしくは「Slackのビデオで」となりますが、”旧リアル”の人だと「今日は会議だから、朝早く出社しなくちゃ」「タクシーも予約しておかなきゃ」「資料は前日に印刷しておくように!」となる。今は、たいていのことは、もうネットを利用してできてしまう。フリクションゼロなんです。それを使いこなせる人と、そうじゃない人とでは発想回路がまったく違います。

物を買いに行くことひとつとっても、”新リアル”側の人は「どうして、わざわざ買いに行かなきゃならないの?」となってしまう。百貨店やショッピングモールがダメになったわけではなく、そういう場所に行くワクワク感を経験する前に、スマホで物が買えることを知ってしまっているので、そういう経験が必要ない世代なんです。

スマートニュース 株式会社 西口 一希 氏

 

2つの世界をクーポンがつなぐ

―そんな分断された世界の中では、マーケティングも難しいですね。何か工夫されている点はありますか?

スマートニュースで考えると、”旧リアル”と”新リアル”の接点を作ることを意識しています。”旧リアル”の世界がなくなればいいとは思っていません。新聞や雑誌、本は媒体が持っている深い情報を広く与えられるし、時間をかけて理解を深めることができるという強みがある。そこで、スマートニュースでは、各コンテンツのパブリッシャーさんに、”新リアル”に住む方々をつなぐ貢献をしたいと考えています。

スマホの中でしか生きることができない人が増えているなかで、そういう人々に情報を選択肢として与えて、最終的には雑誌などの媒体もちゃんと買って読むようになればいいと思っています。「そんなものいらない」という人も、何の情報もないよりもあったほうがいい。だから、”旧リアル”と”新リアル”の接点を作ることはとても重要なことなんです。

先ほどのCMを打ったのが私の第1打席で、第2打席ではクーポンをやりました。マクドナルドやガストといったチェーン店とユーザーとの接点を作ったんです。スマホの世界に住んでいる人って、もはや街の風景なんて見ていません。自分のいる場所の近くに何があるか知らない。近所を検索して、とりあえず食べられるものを食べる。特定のお店を目指していくこともありません。さらに、何を食べようか悩むのもめんどくさいという世代です。何を食べようかって悩むことは、それを楽しいと思えればベネフィットなんですが、一方フリクションでもあるんです。そんなふうに、”新リアル”と”旧リアル”をつなげるということを意識しています。だから、商品を売ろうとはしていません。あくまでも動線を作っているということです。

クーポンは入社前から、ニュースアプリがやるべきだと思っていました。食べ物を選ぶとき、クーポンは決定する際のひと押しになりますからね。財布にぎっしりクーポンが入っている人も多いでしょう? スマホ世代もクーポンは使っていますが、彼らのスマホを見せてもらうと、いろんなチェーン店のアプリを一つひとつ入れていて、それを開いていっていいものがあればそれを食べるという感じで見ているんです。それなら、これをひとつのアプリで見せればいいじゃないかと思って、「SmartNews」に組み込みました。

クーポンをきっかけに、ニュースも見てもらえるようになりますよね。もしかすると、一日ニュースをひとつも見ていないような人でも、「何か食べるためにクーポンを見よう」ってなったときにニュースも目にすれば、弊社のミッションにもつながります。それに、クーポンという存在は、新しいお客さんにリーチしたい飲食店、簡単にランチを選びたいお客さん、アプリのユーザーを増やしたい弊社、この三者の誰にもイヤなことが起こらない。私自身は、この取り組みは近江商人の「三方よし」の実践だと思っています。

クーポンをやろうとなったとき、社内のプロダクトチームのメンバーも「これはいいね」とみんな納得してくれたこともあって、動きがすごく速かった。想定していた期間よりも1か月前倒しでできてしまって、慌てて広告制作に入ったぐらいです(笑)。

ローンチしたら、既存ユーザーさんはクーポンをいっぱい使ってくれたんですが、テレビCMはしばらく打たずにいました。そのあと、テレビCMを入れた途端にユーザー数がドーンと増えて…。やはり認知の問題ですね。いいものを作っても、認知がない状態では自然に広がるということはありませんでした。

もう、今は口コミとかバズは短期間の広がりであり、継続的に広がるということはありません。今は情報が多すぎますし、情報の消費スピードも早すぎます。よくない例えですが、西日本の豪雨や北海道の地震も全然解決していないけれど、”新リアル”の人たちから見ると、もう過去の話になってしまっている。これは社会の問題です。そもそもニュースを見ないということもありますが、情報の消費スピードがあまりにも短絡的になっている。”新リアル”の人たちをどうやってリアルに社会で起こっている現実につなぐかというのもスマートニュースのミッションだと思います。
そういう問題意識もあって、弊社では最近「スマートニュース メディア研究所」というのを立ち上げました。

クーポン導入でたくさんユーザーが来ましたが、気が付いたらクーポンじゃなくて、ニュースを見ている人が多い。英語のニュースチャンネルのときもそうでした。何かをきっかけに、ニュースを読むようになって、各媒体への興味につながればいいなと思います。

スマートニュース 株式会社 西口 一希 氏

 

重要なのはユーザー視点を持ち続けること

―では、第3打席は…?

それは秘密です!(笑)
第2打席のクーポンが効きすぎて…。千鳥さんのネタがおもしろくて、効率がかなりいいですね。

実はクーポンの話は私が入社する前から何度か出ていたらしいのですが、実際はうまく進まなかったようです。理由のひとつは、大手飲食チェーン企業さんとのネットワークがなかったこと。私にはそれが個人的にあったので、Facebookのメッセンジャー一本で、いろんな企業の方とつながることができ、話をまとめられた。実は2017年の入社直後には、各社のCMOから内諾を頂いていました。それを素晴らしいプロダクトチームがUI(ユーザーインターフェイス)、UX(ユーザーエクスペリエンス)に仕立てあげたんです。当時、エンジニアさんたちが「ものすごい、これやりたい」って頑張ってくれました。自分自身が欲しいと思えるモノ作りは、燃えますし、楽しいですよね。

クーポンを掲載するにあたって、営業はほとんどしていませんし、数を増やすことは考えていません。ホットペッパーさんなど、大量のクーポンを扱うサービスがありますからね。われわれはあくまで簡便に、ということです。それに、”新リアル”の人は厳選された選択肢の中で選びたいと思っています。大量の情報は必要ない。

ユーザーがどう感じ、何を望んでいるかを深掘りする。クーポンを導入して、売れているからどんどんブランドを増やそうというのは、作り手の発想でしかありません。独自性の高いものを作るから、プロダクトアウトであるがゆえに強いとは思いますが、その時点でユーザーの気持ちや何に焦点を当てるかが大切になってくるのではないでしょうか。

たとえば、日本のプロダクトって、いろんな機能を付けすぎて、なんだかわかんなくなってしまっているように思います。コネクテッドカーなんて、勝手にコールセンターにつなぐし、センサーもあるし、なんでもつないじゃいますよ〜という具合で結局よくわかんないことになっている。それがユーザーのインサイトと“つながってない”のです。完全にプロダクトアウトの発想です。日本のものづくりの強さは脈々と続いていますが、ユーザー起点にしなければいけないと思います。

結局、プロダクトアウト発想で作られたものは“幕の内弁当”なんです。50種類の具材が入った幕の内弁当と、最高のえび天の弁当、どちらを選ぶかといわれたら多くの人が後者を選ぶと思います。“食べたいものファースト”じゃなくて、“何が提供できるか”がスタートになってしまっている。スマートニュースはそうなっちゃいけない。打席を重ねていくうちにそうなりかねないので、今は「本当にそれをやってユーザーはハッピーなのか?」「誰がハッピーなのか?」「そんな人、実際にいるのか?」をよく考えています。

 

―最後に、今後の展望をお聞かせください。

アメリカで、テレビとオンラインを統合したマーケティングをスタートさせました。昨年までは、オンラインだけでもすごく成長していたのですが、やはり認知の限界があったので、現在はテレビCMも入れるという第2段階に入っています。アメリカは、日本以上にフィルターバブルや分断化といった問題が大きいので、スマートニュースの果たせる役割は大きいと考えています。

 

―アメリカでのビジネスは、西口さんの入社動機のひとつでもありますしね。本日はどうもありがとうございました。

 

 


スマートニュース株式会社 執行役員日米マーケティング責任者
西口 一希
1990年大阪大学経済学部卒業後、P&G マーケティング本部に入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクターを経験。2006年ロート製薬に入社し、執行役員マーケティング本部長として「肌ラボ」「Obagi」「デオウ」「ロート目薬」等の60以上のブランドを統括。2015年ロクシタンジャポン代表取締役。 アジア人初のグローバル エグゼクティブ コミッティ メンバーを経て、ロクシタン外部取締役 戦略顧問。2018年現在、スマートニュース 執行役員 マーケティング担当(Senior Vice President of Marketing Japan and USA)および Strategy Partners 代表。

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