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2018.11.6

スマホ世代の人々に、良質な情報を届けるためのマーケティング戦略 スマートニュース 株式会社 西口 一希さん

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スマートニュース 株式会社 執行役員日米マーケティング責任者 西口 一希氏


有名モバイルニュースアプリのひとつ「SmartNews」。たくさんあるニュースアプリのなかでも、ユーザー満足度が高いといわれる同アプリの日本と米国のマーケティング責任者の西口さん。これまでのキャリアのなかで培ったマーケティング手法を駆使して認知度向上とダウンロード数を増やしてきた発想とその手腕に迫ります。

 

転職の決め手はミッションへの共感

―P&Gやロート製薬、ロクシタンなどでマーケッターとしてキャリアを築き上げてこられた西口さんですが、スマートニュース に入社された動機は何だったのでしょうか?

一番は「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションに共感したことです。マスマーケティングやメディアの世界にいて感じたのは、インターネットの登場とともに誰もがデジタルで平等に正しい情報を手にできるようになると思っていたのですが、意外とそうではなかったということです。

インターネットの普及とともに新聞や雑誌などの紙媒体が若い世代に読まれなくなって、情報を選べるようになり、知らない人はまったく知らない。情報が届かなくなったのではないかという問題意識を持つようになりました。ニュースに触れるのがテレビだけになってしまったのだと感じますね。これは日本だけでなく、世界的な傾向です。

世界はスマホの中に入りつつあるという実感を得るなかで、「スマホを通じて生活に役立つ正しい情報を発信する」というミッションに興味を覚えました。

以前、弊社創業者の鈴木健が書いた『なめらかな社会とその敵』をたまたま読んでいて、その鈴木から「世界を変える為に日本と米国で同時にマーケティングに取り組みたい」と声をかけていただきました。哲学的な本だったので、そのような人がビジネスをやっていることに驚きつつ、「本気で投資するならお手伝いします」と言って入社しました。

もうひとつは、ベンチャーにかかわってみたいという気持ちもありました。自分でコンサル業を5、6年並行してやっているのですが、外から見て「デジタルベンチャーってどんどん世の中を変えてきたけれど、もっとうまく経営できるのにな」と思うところがあったんです。そういう世界からお声がかかったため、行ってみようと思いました。今まで大手の上場会社やグローバル企業でやってきた、マーケティングや経営の手法を試してみたかったというのも理由のひとつです。

テック系の方々の中ではマーケティングは不必要みたいに言われていて、プロダクトさえよければ自然と伸びていくだろうという考えがありました。その考えは神話に過ぎず、もうそういう時代ではないと思っていました。スマホアプリが登場した当初はアプリの数も少なかったので、新しいものが出てくるとみんなこぞって使っていましたが、今では1日に何千、何万というアプリが出てきます。そうなると、完全にレッドオーシャン状態、埋もれてしまうのですよ。それなら当然、マーケティングの思考でやらないと、いいものを作っても認知すらされない。この業界にマーケティングは必要だと、ずっと思っていました。

あと、ロート製薬時代に「肌ラボ」というスキンケア商品を日本で成長させて、アジア導入に成功したけれど、米国進出はうまくいかなかったのです。そのときのリベンジを果たすなら、スマートニュース の米国事業機会が最後のチャンスかもしれないと思ったものです。

もちろん、転職については多少は悩みました。このまま“旧世界”(ネットではない上場企業や外資系の日本法人の世界)の中にいて引退していくというのもアリかな…このままネットの“新世界”のことはわかったフリをしていこうかな…という気持ちもありました。でも、どうも気持ち悪い。50歳でデジタルベンチャーに飛び込んで失敗したら大笑いですよね。実際、スマートニュース に転職したときは、知り合いの経営者やマーケッターたちの反応は生暖かい感じでした。応援すると言いつつ「なんで、無茶すんの?」「大丈夫か?」みたいな(笑)。

スマートニュース 株式会社 西口 一希 氏

 

マーケティングの重要性を社内に認知させる

―2017年に入社されたわけですが、いちばん初めに着手したのはどんなことだったのですか?

テック系の人たちは、ユーザーの行動計測はすごくやるんです。いつログインして、どのページの何をどのぐらいの集中力で読み、いつログアウトしたかといった分析に関してはとても長けています。しかし、心理面の分析は皆無といっていい状態でした。

ユーザーA、Bがいるとして、行動の違いしか見れていない。Aは長く閲覧してくれた、Bはすぐに離脱してしまったというふうに状況は異なるのに、「Aの人が増えてくれたらいいな」と思っているだけで、「なぜBはすぐに離脱してしまったのか」といった心理的な部分は追求しなかったんです。ユーザーそれぞれがどう感じているのか、どう思っているのかを追求しない。だから、まずはそうした心理面が行動を左右するということを社内で共通認識として浸透させたかったんです。

さらに、もっと基本的なところではブランド認知を重視していなかったんですよね。いくらいいものを作っても、認知度が低いと意味がない。知られなければ使われないし、使われないと満足もない。認知にマーケティング投資などしなくても自然に評判が広がっていくというのは神話なんです。

実は、それまで認知とか使用形態を競合と比べたことがなかったんですよ。調査したデータを見ると、「SmartNews」というアプリに対する満足度は非常に高かった。だから、プロダクト自体はいいものなんです。ただ、そもそも認知度が低いだけ。

認知がないのにオンラインの広告をやっても、オンラインは瞬間的なのでダウンロードにつながらないんです。先に認知をしてもらって、アプリに「これは便利だ」というベネフィットを感じていただき、実際にダウンロードするところまでもっていくのは、オンラインだけでは限界があります。そのあたりをデータ化し、考え方自体を組織全体、さらに投資家の皆さんと共有しました。テレビ広告は使わなくてはいけないと思っていましたが、私が入社した当初はまだテック系の人たちに、マーケティング=ムダな金というバイアスがあり、すごく懐疑的に見られていましたね。投資家の方にも、「ダメだったら、データですぐ分かるから、すぐ止めたらいいよ」と励ましのような、そうでないようなコメントも貰いましたよ。

 

―そうした状況をどのように乗り越えて、予算をつけてもらったのでしょうか?

入社するとき、鈴木に「予算は取るし、3打席は立ってほしい」と言われました。幸い、第1打席で当たったのでよかったですね。

 

―第1打席というのがテレビCMですね。

そうです。まず、コンセプトスクリーニングリサーチというのをやりました。「SmartNews」を訴求するとしたら、どの要素を伝えるのがよいかというのを30パターンぐらい作り、どれに反応するかをざっと見たんです。そうすると、「このあたりがよさそう」というのが見えてきたので、それを広告とオンラインで連動して訴求していきました。

私自身、アプリのマーケティングは初めてで手探り状態だったので、何本か広告を作りました。オンライン広告のいいところって、何種類も作って当たりを見つけるという手法ができるところですね。その方法をマスのほうにも持ち込んで、テレビのCMも6本作りました。同じ敷地内にスタジオを3つ作って、その間を移動しながら1日6本作るというメチャクチャなスケジュールでした(笑)。

 

“幕の内弁当”では売れない

―出稿を始めてどれぐらいのタイミングで反応が見えるようになったのですか?

反応は、リアルタイムでわかります。完全な数値化は1日。統計的に確からしいと思うのは1週間です。アプリの場合、広告を流した時点からダウンロード数に効果があるかどうかすぐ見えるんです。おもしろいことに、テレビCMを流してその視聴率が高かったとしても、必ずしもダウンロード数につながりません。だから、アプリの広告においては、視聴率がそのまま効果測定の指標になるわけではないんです。視聴態度や集中力、テレビのコンテンツのあり方によって、興味の向く方向も違う。あまり集中してしまうような内容の番組だと、どれだけ視聴率があってもテレビCMは響かないんです。

私は「Googleトレンド」を参考指標に使っているのですが、広告が流れた直後に「Googleトレンド」をチェックすると、響いたものはすぐにトレンドに上がってくるんです。アプリだけじゃなくて、一般の小売業でも同じです。今の時代って、興味を持ったらまず検索する。検索してからじゃないと、購買行動に移らないんです。ちなみに「Googleトレンド」とダウンロード数には相関性を見出すことができます。一般向けの消費財のCMでも、「Google トレンド」に反応のないような場合は効果はないと思いますよ。

広告を作ってみておもしろかったのは、テレビCM6本の中で、コンセプトの評価スコアが高い要素を訴求したCMは反応がイマイチだったこと。コンセプトスコアが真ん中ぐらいのもので作ったCMが一番いい反応が得られました。

下馬評ではあまりよくなかった「無料で英語ニュースが読める」というCMが、やってみたらダウンロード数が伸びました。きっかけは私の妻が「SmartNews」の英語版を使って、英語ニュースを見ていたこと。アプリの設定で日本語版と英語版を切り替えられるんです。ユーザーにはそもそも切り替えられることを知らない人もいました。結構ニッチな話で、そもそも英語でニュースを見る人なんて少ない。でも、英語のニュースが読めることをきっかけに「SmartNews」を使ってもらえればと思ったんです。

そこで「英語のチャンネルをやりたい」と提案すると社内も協力的で、海外メディアを説得して日本版の「SmartNews」に直接入れてもいいという許諾を取ってくれました。1か月で「World News チャンネル」っていうのを作ったんですが、正直なところ「期待値が上がっちゃって失敗したらどうしよう」って思っていました。

「World News チャンネル」を前面に出して「英語のニュースが無料で読める」というCMを作り、そのなかで「他にもいろいろなコンテンツがあります」というのも伝えることができました。このCMでダウンロード数を伸ばすことができましたが、ずっとこのチャンネルを見ている人は、実は少ないんですよ。他のチャンネルも幅広く見ている人が多い。結局プロダクトがよくて、コンテンツが充実しているので「SmartNews」からは離れて行かないんです。

TVCMで、「こんなにコンテンツが色々あって充実している」って訴えても、誰も来ないんです。“幕の内弁当”って売りにくいんですよ。焼肉弁当とか、唐揚げ弁当のほうが、訴求ポイントがはっきりしているから売りやすい。「朝一番でニュースがチェックできますよ」っていうのが、ニュースアプリの一般的なベネフィットですが、それは「SmartNews」じゃなくても読めるとみなさんわかっていますよね。だから、「英語のニュースが無料で読める」というのは圧倒的に訴求力があったんだと思います。

 

テレビとオンラインの統合

―広告の効率の良し悪しを把握するために、広告の打ち方の部分で工夫している点ってあるんでしょうか?

テレビCMは、最初は全日型で出稿して、地方や局、時間帯、番組の効率をすべて見ます。どこが効率いいかわかってくるので、毎週最適化させていきました。今はどこで打つのが効率よいかわかっている状態ですね。視聴率は関係ありません。

あと、番組ごとのコスト効率もわかりますね。今、テレビ広告の値付けって局の言い値で、ふわっとしている。だから、クライアント側がデータを持つことで、適正価格が出てくるんじゃないかと思います。CMを打ちたい側の希望って、人気の局とか番組に集中するじゃないですか。みんな、よくわからないから特定の部分に集まるだけなんです。でも、視聴者が番組内容に集中するほど、広告は響かなくなってしまうんです。

視聴率は悪いけど、広告を打つのに効果的な番組があるなら、そういうところの価格を上げて、広告が響きにくいところは下げればいいと思います。デジタルを駆使する会社が増えることで、テレビ広告の価格は適正になるのではないでしょうか。

―テレビ離れが言われるようになって久しいですが、テレビCMの使い方はまだまだありますよね。

テレビとオンラインを統合的に結び付けることで認知が上がり、ダウンロード数も増えましたね。あと、テレビCMを打つと、従業員もご家族や友人もポジティブに反応するんですよ。「ベンチャーとかいう、よくわかんないところで働いて…」という認識から、「ああ、テレビでCMやってるあそこか」って変わる。それから、お客様の中での信頼度も上がります。ロクシタンにいたときも、テレビCMを打つと店舗の販売員の応募が増えたりしました。テレビCMはちゃんとやると、いろんな部分がよくなるんです。

 

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