HOME マーケ 観戦体験の価値を高めるJリーグの新たなデジタル戦略 株式会社 Jリーグデジタル 代表取締役 社長執行役員 出井 宏明
2018.11.16

観戦体験の価値を高めるJリーグの新たなデジタル戦略 株式会社 Jリーグデジタル 代表取締役 社長執行役員 出井 宏明

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さらなるデジタル技術の活用と人材育成

 

―顧客データベースの整備の他に、デジタル戦略として進めたことはありますか?

顧客IDの統合や、アプリの開発などさまざまな取り組みをしています。特に、昨年導入したJリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」はとても好評です。月間のアクティブ率も60%ほどもあり、多くのユーザーに支持されています。

 

―スタジアムにチェックインするとメダルが貰える企画も好評ですよね。

アプリの開発にあたっては、「スポーツナビ」などの数ある情報系のアプリと似たものだと差別化が難しいと考え、“スタジアムに来てもらうこと”に目的を絞ったものにしようと考えました。
いろいろな調査やアンケートからはっきりと分かっているのは、初めてJリーグの試合観戦に訪れる人のほとんどは「誰かに誘われたから」という理由で足を運んでいることです。ですから、今回のアプリでは、試合会場を訪れてチェックインしたアプリ会員にメダルを付与し、3枚集めると無料観戦チケットが当選するキャンペーンに応募できるなど、友人や家族を誘って会場に何度も来てもらうために工夫したつもりです。
さらに、イオンのお店に行ってチェックインするとメダルをゲットできるなど、パートナー企業の皆さまにもご協力いただいて、さまざまな企画を積極的に行っています。Jリーグアプリにご協力いただいている明治安田生命様をはじめ、イオン様、日本スポーツ振興センター様などパートナー企業の皆さまにとってもアプリ会員の顧客情報を活用することで大きなマーケティングツールになりますし、Jリーグ・顧客・スポンサー企業の「三方良し」の企画ができているのではないかと自負しています。

 

―そうした取り組みは今後も継続される予定ですか?

そうですね、ぜひ続けていきたいと思います。しかし、メダルを使ったインセンティブ企画もすでにスタートして1年が経つので、そろそろ何か新しいサービスを、と考えているところです。

 

―御社では、各クラブの担当者を対象に「デジタル人材育成講座」も開かれていますよね。

はい。というのも、こちらがいくら顧客データベースやアプリのシステムなどを開発してデジタルプラットフォームを構築しても、各クラブの方々に実際に使っていただかないと宝の持ち腐れになってしまうからです。
しかし、現状ではクラブにデジタルコンテンツについて詳しい専任の担当がいることは稀で、他の業務と兼任している担当者の方が圧倒的に多い。そのうえ、クラブ内に相談できる人もいないという状況で、みなさん孤軍奮闘されています。
そこで、少しでもお役に立てるよう、デジタルコンテンツを使ったプロモーションやマーケティングに関する講座を始めました。その成果として、最近では私たちが提供するプラットフォームを活用して、各クラブでさまざまな情報発信がされるようになりました。
私は自分のスマホにJリーグの全クラブをお気に入り登録しているのですが、最近では毎日すごい量のメールが来るようになって、とてもじゃないけど全部見切れない状態です(笑)。

 

 

次なる課題はデータの分析・活用

 

―データベースによる一元的な顧客管理を通じて、多くの情報が集まってくると思いますが、それをどう分析・活用されていますか?

正直、現時点ではまだ十分に活用できているとは言えない状況です。新たに顧客データベースの運用が始まったのはつい最近のことで、ようやく環境が整ったという段階なので、十分な分析・活用ができていないのも無理はありません。
とはいえ、すでに顧客データベースをプラットフォームとして、「ワンタッチパス」のシステムやチケットシステム、ECサイト、アプリやスタジアムWi-Fiなどのサービスをさまざまなパートナー企業と一緒になって運営しています。Jリーグの様々なサービスを利用いただける共通ログインID(JリーグID)も、すでに100万を超える規模のユーザーに登録いただきデータが溜まってきている状況です。ですから、集まった顧客情報の分析・活用については、これから急いで取り組むべき大きな課題です。

 

―マーケティングデータを分析する専門の方はいらっしゃるのですか?

人員的な問題もあって、分析を専門にする人はまだいません。実際に、そうした能力のある人材はなかなか採用出来ないんですよ。どなたかご存知だったら教えてほしいぐらいです(笑)。

 

―何か解決策はお考えですか?

とにかく、情報の分析・活用を十分に行うためには、特に運用面ではマンパワーだけに頼るやり方では作業負荷が大きすぎるので、いわゆるMA(マーケティング・オートメーション)ツールの導入を検討しているところです。
また、あわせてプライベートDMP(自社の持つ膨大なデータを他のデータベースと連携し、ビジネスに活用するためのプラットフォーム)を構築して、リーグや各クラブのWEBサイトだけでなく、さまざまなパートナー企業が持つ情報とも連携して、プライベートDMPを介したデータのやりとりができるようになればと考えています。

 

―これからもどんどんと進化していきそうですね。

しかし、いくら仕組みを作っても、実際にそれを各クラブで使ってもらわないと意味はありません。そこで大事なのは、各クラブで集まった情報を分析し、活用できる人材を育てることです。そのため、先述の「デジタル人材育成講座」を推進するとともに、リーグの中からパイロットクラブを選出して、重点的にデジタルインフラを活用したサービス提供やデータの分析・活用を協働・支援する取り組みを行っています。

 

―まずは少数のクラブから始めて、それを雛形にしてデータの分析・活用を充実させようという狙いですね。

その通りです。実際に、こうしたサポートをきちんとやろうとしたら、こちらの人員的に全クラブ対象は厳しいので、たとえば鹿島アントラーズやガンバ大阪、ベガルタ仙台といったいくつかのクラブに協力いただき、チケットシステムやEC、スタジアムWi-Fiなどのデジタルインフラを活用したサービス提供のための分析支援や戦略的なアドバイスをしながら、一緒になって、より効果的なデジタルマーケティングのあり方を探ろうという意図です。

 

 

顧客を可視化する

 

―膨大にインプットされる情報を、効果的に活用するためにはどんな点に注意が必要だとお考えですか?

そうですね、たとえばメール配信サービスなんかも、単に数を多く配信するだけでは効果がなく、配信する情報の質が問われるようになっています。あまりに多くの中身のない情報を発信するとスパム化して逆効果になりかねません。同じ情報を届けるにも、必然性のある人に最適なタイミングで提供しないとすぐにスルーされてしまいます。そのためにも、インプットされた情報を活用・分析して、顧客がどんな情報を、どんなタイミングで欲しているのかを知ること、つまり「顧客の可視化」が重要になります。

 

―ちなみに、毎年Jリーグが発表している「スタジアム観戦者調査」のアンケート結果もマーケティング情報として活用されているのですか?

「スタジアム観戦者調査」は、各試合会場で行うアンケート調査なのでデジタル化された行動データではないですが、リーグ発足から所属する全クラブを対象に1年間に1回ずっと行っている調査なので、特に顧客動向の時系列の変化を見るには重要なデータです。

 

―より緻密なマーケティングには、より多くのデータが必要ですよね。

顧客の実際のデータが見えないと何も改善のしようがありません。
たとえば、無料招待券を送られた人が1年以内にリピーターとなる確率はどの程度で、スタジアムを訪れたときにフードコートでどの程度お金を使ってくれたか、といったことを緻密に把握することで、実際に無料招待券がどれだけ収益獲得や来場促進に繋がっているのかを検証することができます。それが分かれば、もしかしたらもっと無料招待券を配布してもいいかもしれない。

 

―極端な話、スタジアム内での飲食や物販で使うお金が多ければ、チケットはタダでもいいかもしれませんよね(笑)。

そうなんですよ。
他にも、スタジアム来場者にノベルティを配るプロモーションをする際にも、それを目当てに来た来場者がどの程度いるのかによって、それにかける予算も変わるし、どんな景品が顧客に喜ばれるのかといった情報も収集できれば、より効果的な企画が可能になります。
だから単純にチケットシステムで分かる顧客の情報だけでなく、スタジアム内の物販に関する情報など、協力いただくパートナー企業とも連動した幅広いデジタルマーケティングがこれからは非常に重要になってくると思います。

 

―ちなみに、出井さんから見て面白い取り組みをしていると感じるクラブはありますか?

いろいろあってひとつだけ挙げるのは難しいですが、川崎フロンターレの「ビ-ルクーポン企画」や名古屋グランパスの「推しメンコンテスト」など、各クラブでいろいろと頑張ってらっしゃると思います。とにかくクラブの地域性や個性を活かしていろいろな取り組みをしていますよ。
これは、特定のクラブの話ではありませんが、顧客データベースが整うことで可能になったプロモーションとして面白いのは、アウェイサポーター向けの企画ですね。たとえば、川崎フロンターレがホームでガンバ大阪と対戦する場合、従来はホームの川崎フロンターレのデータに登録されているサポーターだけを対象にキャンペーンのメールなどが送られていました。今は、顧客データベースの導入によって「大阪出身、関東在住の方で、以前にガンバ大阪のアウェイチケットを購入したことがある人」を特定できるので、アウェイサポーター向けのキャンペーンが実施可能になりました。

 

―なるほど、それは面白いですね。

他にも今後は、顧客がリーグやクラブのサイトで、どんな情報に頻繫にアクセスしているかを分析することによって、そのファンがクラブのファンなのか、それとも特定の選手のファンなのかが分かるようになったりします。もし、ある選手の情報に頻繫にアクセスしているファンが分かれば、その人には選手の情報やメッセージを発信するのが効果的かもしれません。
いずれにしても、顧客を可視化することで、さまざまなプロモーションやマーケティングの可能性が大きく広がります。

 

―最後に、今後の課題や目標について教えてください。

2015年からのデジタル戦略によって、リーグも各クラブも、整備された“グラウンド”で勝負できるだけの準備はできたと思います。
もちろん、いま以上に使いやすいシステムやサービスを追求して、“グラウンドの進化”は今後も続けていく必要がありますが、これからはJリーグだけでなく、サッカー日本代表のチケットを購入したことのある方はもちろん、小学生から大人までさまざまサッカーを競技としてプレーされている方のデータなどJリーグ以外の組織との連携も探っていきたいと考えています。
その上で、とにかくJリーグの試合を観にきてくれたお客様に、忘れられない「観戦体験」を提供し続けていくことが何よりも大切だと思います。そのためには、お客様のことをもっと知る必要があると思いますし、いままで以上にデジタル技術の活用を推進することが大切になるでしょう。

 

―なるほど。本日はありがとうございました。

(了)


出井 宏明(でい ひろあき)

1988年に横浜国立大学機械工学科を卒業後、株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。人事、営業を経て人材関連事業や住宅関連事業において商品企画、 事業開発などに従事。2013年7月 公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に入社し、事業、マーケティング、国際関連領域を担当。2018年4月に株式会社Jリーグデジタルの代表取締役社長に就任。

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