「観戦体験の価値を高めるJリーグの新たなデジタル戦略 〜キャプテン翼の動画企画が大きな評判に〜」株式会社 Jリーグデジタル 代表取締役 社長執行役員 出井 宏明

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「観戦体験の価値を高めるJリーグの新たなデジタル戦略 〜キャプテン翼の動画企画が大きな評判に〜」株式会社 Jリーグデジタル 代表取締役 社長執行役員 出井 宏明

株式会社 Jリーグデジタル
代表取締役 社長執行役員 出井 宏明

1993年にスタートして今年でちょうど25周年を迎えた「Jリーグ」。現在では、J1からJ3まで54ものクラブが所属し、年間延べ1,000万人を超えるファンが来場する巨大なリーグへと成長を遂げました。しかし近年、スタジアムへの来場者数の伸び悩み、ファンの高齢化など、さまざまな課題を抱えていました。そうした状況を改善するため、次なる成長戦略の柱としてスマートフォンをはじめとした「デジタル技術の活用推進」を大きなテーマに掲げて、改革を進めています。その最前線における取り組みについて、株式会社 Jリーグデジタル の代表を務める出井氏にお話を伺いました。

Jリーグの仕事に携わるきっかけ

―出井さんは1998年から約20年間、リクルート社にお勤めでしたが、そこからJリーグに関わるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

いや、まったく"たまたま"なんですよ(笑)。

そもそも、私は理系出身で、リクルートに入社したのも当時リクルートが強化していた通信とかコンピュータ関連の仕事がしたかったからなんですが、なぜか最初は人事部に配属されて...。その後も求人広告や研修などの営業を担当するなど、最初の10年間はデジタルコンテンツにはあまり関係がない仕事をしていました。しかし、その後の10年間で営業から商品企画や事業戦略を担当するようになると、ちょうど時代が紙媒体などのアナログメディアから、インターネットなどのデジタルメディアに移行する時期と重なったこともあり、転職・求人サイト「リクナビNEXT」の前身となるサービスの立ち上げや、不動産ポータルサイト「SUUMO(スーモ)」など、デジタルコンテンツを使ったビジネスに携わるようになったんです。

―そこまでは全くサッカーと関係ありませんね。

そうなんです(笑)。ただ、サッカーは小学生の頃からやっていて、もともと好きだったんです。社会人になってからも東京都の社会人3~4部リーグで選手として試合に出たり、プライベートではサッカーに親しんでいました。内心、定年後にボランティアでもいいのでサッカーに関わることがしたいと、漠然と考えてはいましたが、まさか自分がこんな形でサッカーに関わる仕事に就くなんて、夢にも思っていませんでした。

―不思議な"ご縁"を感じますね。

そうですね。リクルートは、社員が30歳を超えたあたりから、どんどんと会社を卒業して自分のやりたい仕事を始める人が多い会社で、自分も次に何をしようかと考えていたのですが、そんなとき、たまたまJリーグの事業部マネージャーの求人情報の紹介をもらい、ダメモトで応募したら、なぜか採用されまして(笑)。

本当に"たまたま"としか言いようがないのですが、何か"縁"があったということでしょうか。

Jリーグデジタル設立の目的

―出井さんが代表を務める「株式会社Jリーグデジタル」についてご紹介いただけますか?

Jリーグデジタルは、Jリーグに関するデジタルコンテンツや中継映像制作を担う会社として2017年1月に設立された会社です。現在は、公式サイトなどのオウンドメディアの企画・開発・運用や、アプリやSNS、YouTubeなどのデジタルメディアを活用したマーケティングを行う「コミュニケーション推進部」と、デジタルプラットフォームの企画・開発・運用やクラブ集客支援を行う「プラットフォーム戦略部」、ECの利用促進・収益拡大に取り組む「EC推進部」の3部門で構成されています。

―新会社の設立にはどのような背景があったのですか?

1993年にスタートしたJリーグは、観客動員や人気などの面でも順調に成長してきましたが、正直なところ、ここ数年は伸び悩んでいる時期があり、その状況を打破するための新たな成長戦略として「デジタル技術の活用」を大きなテーマとして掲げてきました。たとえば、最近、大きな話題となった「DAZN(ダゾーン)」によるストリーミング配信もこの戦略の一環です。

Jリーグデジタルが発足したのも、従来のテレビ中心のメディア戦略を転換し、スマホなどを使ったデジタル戦略へと方向転換することで、新たな顧客を開拓し、現状の頭打ち状態を打開していくためです。

―現在は何名の方が働いていらっしゃるのですか?

Jリーグデジタルの社員が15名程度、その他に楽天などのパートナー企業から出向で来てもらっている人や、外部の開発スタッフで常駐する人などが15名程度ですが、仕事量が増えるとともに、どんどん人員も増えている状態です。

みんな一芸に秀でたプロフェッショナルばかりで、なかなか面白い職場ですよ(笑)。

デジタル化を大きく前進させた「キャプテン翼」企画

―Jリーグで実際に仕事をされてみて、いかがでしたか?

私がリクルートを退社して、Jリーグの競技事業統括部の事業部マネージャーの職に就いたのが2013年7月、それからすでに5年の月日が経ちますが、最初の2~3年は、協賛事業やリーグやクラブの協賛事業や商品化事業などに関わる各種規制の見直しの仕事や、リーグのオウンドメディアである公式サイトのリニューアルなどに取り組んでいるうちに、あっという間に過ぎたという感じでしたね。

その後、2015年頃になってようやく現在、重点戦略の一つとなっている "デジタル化"への取り組みが本格的にスタートしました。

―最初は苦労されたのですか?

そうですね。Jリーグもすでに25年の歴史があって、従来から積み上げられてきたシステムがあり、それをいきなり壊して更地にするわけにもいきません。それに、所属するクラブチームごとにお客様のデータの管理もバラバラだったので、最初はかなり苦労しました。

しかし、私はもともと、何かをイチから始めるということだけでなく、やりたいことは見えていても、その手段が分からないといった"踊り場"にある組織をブレイクスルーさせることにも関心があったので、やりがいを強く感じました。

それに、リクルート在籍時に、求人誌という紙のアナログ媒体だったものから、求人サイトというデジタル媒体へ劇的に移行したときを経験していたので、何をどうすればよいか、その大きな方向性については分かっていたつもりです。

―デジタル化を推進する上で、きっかけとなるようなことはあったのですか?

Jリーグの中で、デジタルコンテンツの可能性が大きくクローズアップされたのは、間違いなく2014年に実施した漫画「キャプテン翼」の名シーンをプロ選手が実演する動画シリーズの企画からですね。これは公開されるやいなや、すぐに大きな評判となり、中には視聴回数が900万回を超える人気の動画も出てくるなど、一部ではこの企画が「Jリーグを救った」と言われるほど話題となりました。リーグやクラブの関係者の多くが、これからの時代はデジタルコンテンツが重要だと認知されたのではないでしょうか。これを機に、動画活用のチャレンジやSNSもFacebookから、TwitterやInstagram、YouTube、LINEなども積極的に展開するようになり、公式サイトもどんどん変わっていきました。

デジタルプラットフォームという"グラウンド"の整備

―2015年頃から本格的にデジタル戦略を推進する上で、最初の課題はどんな点でしたか?

まず、最初に考えなければならなかったのは、一元化された顧客のデータベースを整備することでした。それまで、顧客管理についてはリーグやクラブごとにバラバラで行っていました。そのため、リーグとしては「シーズンチケット購入者」や「ファンクラブ会員」など、特定の顧客しかデータを捕捉できていない状況だったんです。しかも、そのデータは一元管理されていないクラブも多く、2種のデータベースに登録されている顧客がどちらかで登録内容を変更した場合も、片方のデータベースには反映されないケースもありました。

―それは、改善が必要ですね。

とにかく、顧客のことが分からないと、何かを改善しようにもその指針がないわけですからどうしようもない。サッカーにたとえるなら、戦うためのベースとなるグラウンドがきちんと整備されていない状態です。なので、まずはきちんと一元化された顧客データベースを作り、それに基づいてさまざまな情報やサービスを発信できるデジタルプラットフォームを構築しようと動き出したのがちょうど2015年のことです。

―データベースを整備する上で苦労されたことは?

やはり難しかったのは、既存のデータベースにある情報を新しいデータベースに移し替えないといけないということです。従来までは、各クラブにおける会員組織やチケット購入者、シーズンチケット、グッズ販売、来場者などの顧客管理はバラバラに行われていたので、それらをどう新しいデータベースに移行するかが問題でした。

ちなみに、2016年に発足したプロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE(Bリーグ)」も、デジタル戦略については私たちJリーグと似たコンセプトだと思っていますが、B.LEAGUEは従来の2つの団体を一度スクラップして、ゼロから新たにシステムを構築しているので、Jリーグと違って、戦略の推進も新しいシステムの導入スピードも速い。外から見ていて、羨ましくて仕方ありませんでした(笑)。

―ちなみに、新しいデータベースはスクラッチで開発されたのですか?

基幹となるデータベースはスクラッチで開発し、その置き場所はクラウドを活用しています。そして、チケットシステムやアプリなどの付随するツールやサービスについては、さまざまなパッケージを組み合わせたり、パートナー企業の仕組みを提供いただいて構築しています。というのも、その時代において最も良いものをビルトインして、時間とともにそれらが陳腐化したら入れ替えられるような柔軟な設計コンセプトのシステムにしたかったからです。ですから、スクラッチで作りこむ部分はできるだけ少なくして、各クラブにとってもデータベースを活用しやすいような設計思想を意識しています。

―新しいデータベースへの移行は、Jリーグ所属の全クラブが対象だったのですか?

もちろん、所属するすべてのクラブに使っていただけるものですが、決して導入を強制するものではありません。あくまで気に入ってもらったクラブに使っていただくというスタンスです。

そのため、単にシステムを構築するだけでなく、各チームをまわってシステム導入のメリットを伝え、少しずつ導入いただけるクラブを増やしていきました。現状では54クラブ中の約90%のチームに活用していただいています。

さらなるデジタル技術の活用と人材育成

―顧客データベースの整備の他に、デジタル戦略として進めたことはありますか?

顧客IDの統合や、アプリの開発などさまざまな取り組みをしています。特に、昨年導入したJリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」はとても好評です。月間のアクティブ率も60%ほどもあり、多くのユーザーに支持されています。

―スタジアムにチェックインするとメダルが貰える企画も好評ですよね。

アプリの開発にあたっては、「スポーツナビ」などの数ある情報系のアプリと似たものだと差別化が難しいと考え、"スタジアムに来てもらうこと"に目的を絞ったものにしようと考えました。

いろいろな調査やアンケートからはっきりと分かっているのは、初めてJリーグの試合観戦に訪れる人のほとんどは「誰かに誘われたから」という理由で足を運んでいることです。ですから、今回のアプリでは、試合会場を訪れてチェックインしたアプリ会員にメダルを付与し、3枚集めると無料観戦チケットが当選するキャンペーンに応募できるなど、友人や家族を誘って会場に何度も来てもらうために工夫したつもりです。

さらに、イオンのお店に行ってチェックインするとメダルをゲットできるなど、パートナー企業の皆さまにもご協力いただいて、さまざまな企画を積極的に行っています。Jリーグアプリにご協力いただいている明治安田生命様をはじめ、イオン様、日本スポーツ振興センター様などパートナー企業の皆さまにとってもアプリ会員の顧客情報を活用することで大きなマーケティングツールになりますし、Jリーグ・顧客・スポンサー企業の「三方良し」の企画ができているのではないかと自負しています。

―そうした取り組みは今後も継続される予定ですか?

そうですね、ぜひ続けていきたいと思います。しかし、メダルを使ったインセンティブ企画もすでにスタートして1年が経つので、そろそろ何か新しいサービスを、と考えているところです。

―御社では、各クラブの担当者を対象に「デジタル人材育成講座」も開かれていますよね。

はい。というのも、こちらがいくら顧客データベースやアプリのシステムなどを開発してデジタルプラットフォームを構築しても、各クラブの方々に実際に使っていただかないと宝の持ち腐れになってしまうからです。

しかし、現状ではクラブにデジタルコンテンツについて詳しい専任の担当がいることは稀で、他の業務と兼任している担当者の方が圧倒的に多い。そのうえ、クラブ内に相談できる人もいないという状況で、みなさん孤軍奮闘されています。

そこで、少しでもお役に立てるよう、デジタルコンテンツを使ったプロモーションやマーケティングに関する講座を始めました。その成果として、最近では私たちが提供するプラットフォームを活用して、各クラブでさまざまな情報発信がされるようになりました。

私は自分のスマホにJリーグの全クラブをお気に入り登録しているのですが、最近では毎日すごい量のメールが来るようになって、とてもじゃないけど全部見切れない状態です(笑)。

次なる課題はデータの分析・活用

―データベースによる一元的な顧客管理を通じて、多くの情報が集まってくると思いますが、それをどう分析・活用されていますか?

正直、現時点ではまだ十分に活用できているとは言えない状況です。新たに顧客データベースの運用が始まったのはつい最近のことで、ようやく環境が整ったという段階なので、十分な分析・活用ができていないのも無理はありません。

とはいえ、すでに顧客データベースをプラットフォームとして、「ワンタッチパス」のシステムやチケットシステム、ECサイト、アプリやスタジアムWi-Fiなどのサービスをさまざまなパートナー企業と一緒になって運営しています。Jリーグの様々なサービスを利用いただける共通ログインID(JリーグID)も、すでに100万を超える規模のユーザーに登録いただきデータが溜まってきている状況です。ですから、集まった顧客情報の分析・活用については、これから急いで取り組むべき大きな課題です。

―マーケティングデータを分析する専門の方はいらっしゃるのですか?

人員的な問題もあって、分析を専門にする人はまだいません。実際に、そうした能力のある人材はなかなか採用出来ないんですよ。どなたかご存知だったら教えてほしいぐらいです(笑)。

―何か解決策はお考えですか?

とにかく、情報の分析・活用を十分に行うためには、特に運用面ではマンパワーだけに頼るやり方では作業負荷が大きすぎるので、いわゆるMA(マーケティング・オートメーション)ツールの導入を検討しているところです。

また、あわせてプライベートDMP(自社の持つ膨大なデータを他のデータベースと連携し、ビジネスに活用するためのプラットフォーム)を構築して、リーグや各クラブのWEBサイトだけでなく、さまざまなパートナー企業が持つ情報とも連携して、プライベートDMPを介したデータのやりとりができるようになればと考えています。

―これからもどんどんと進化していきそうですね。

しかし、いくら仕組みを作っても、実際にそれを各クラブで使ってもらわないと意味はありません。そこで大事なのは、各クラブで集まった情報を分析し、活用できる人材を育てることです。そのため、先述の「デジタル人材育成講座」を推進するとともに、リーグの中からパイロットクラブを選出して、重点的にデジタルインフラを活用したサービス提供やデータの分析・活用を協働・支援する取り組みを行っています。

―まずは少数のクラブから始めて、それを雛形にしてデータの分析・活用を充実させようという狙いですね。

その通りです。実際に、こうしたサポートをきちんとやろうとしたら、こちらの人員的に全クラブ対象は厳しいので、たとえば鹿島アントラーズやガンバ大阪、ベガルタ仙台といったいくつかのクラブに協力いただき、チケットシステムやEC、スタジアムWi-Fiなどのデジタルインフラを活用したサービス提供のための分析支援や戦略的なアドバイスをしながら、一緒になって、より効果的なデジタルマーケティングのあり方を探ろうという意図です。

顧客を可視化する

―膨大にインプットされる情報を、効果的に活用するためにはどんな点に注意が必要だとお考えですか?

そうですね、たとえばメール配信サービスなんかも、単に数を多く配信するだけでは効果がなく、配信する情報の質が問われるようになっています。あまりに多くの中身のない情報を発信するとスパム化して逆効果になりかねません。同じ情報を届けるにも、必然性のある人に最適なタイミングで提供しないとすぐにスルーされてしまいます。そのためにも、インプットされた情報を活用・分析して、顧客がどんな情報を、どんなタイミングで欲しているのかを知ること、つまり「顧客の可視化」が重要になります。

―ちなみに、毎年Jリーグが発表している「スタジアム観戦者調査」のアンケート結果もマーケティング情報として活用されているのですか?

「スタジアム観戦者調査」は、各試合会場で行うアンケート調査なのでデジタル化された行動データではないですが、リーグ発足から所属する全クラブを対象に1年間に1回ずっと行っている調査なので、特に顧客動向の時系列の変化を見るには重要なデータです。

―より緻密なマーケティングには、より多くのデータが必要ですよね。

顧客の実際のデータが見えないと何も改善のしようがありません。

たとえば、無料招待券を送られた人が1年以内にリピーターとなる確率はどの程度で、スタジアムを訪れたときにフードコートでどの程度お金を使ってくれたか、といったことを緻密に把握することで、実際に無料招待券がどれだけ収益獲得や来場促進に繋がっているのかを検証することができます。それが分かれば、もしかしたらもっと無料招待券を配布してもいいかもしれない。

―極端な話、スタジアム内での飲食や物販で使うお金が多ければ、チケットはタダでもいいかもしれませんよね(笑)。

そうなんですよ。

他にも、スタジアム来場者にノベルティを配るプロモーションをする際にも、それを目当てに来た来場者がどの程度いるのかによって、それにかける予算も変わるし、どんな景品が顧客に喜ばれるのかといった情報も収集できれば、より効果的な企画が可能になります。

だから単純にチケットシステムで分かる顧客の情報だけでなく、スタジアム内の物販に関する情報など、協力いただくパートナー企業とも連動した幅広いデジタルマーケティングがこれからは非常に重要になってくると思います。

―ちなみに、出井さんから見て面白い取り組みをしていると感じるクラブはありますか?

いろいろあってひとつだけ挙げるのは難しいですが、川崎フロンターレの「ビ-ルクーポン企画」や名古屋グランパスの「推しメンコンテスト」など、各クラブでいろいろと頑張ってらっしゃると思います。とにかくクラブの地域性や個性を活かしていろいろな取り組みをしていますよ。

これは、特定のクラブの話ではありませんが、顧客データベースが整うことで可能になったプロモーションとして面白いのは、アウェイサポーター向けの企画ですね。たとえば、川崎フロンターレがホームでガンバ大阪と対戦する場合、従来はホームの川崎フロンターレのデータに登録されているサポーターだけを対象にキャンペーンのメールなどが送られていました。今は、顧客データベースの導入によって「大阪出身、関東在住の方で、以前にガンバ大阪のアウェイチケットを購入したことがある人」を特定できるので、アウェイサポーター向けのキャンペーンが実施可能になりました。

―なるほど、それは面白いですね。

他にも今後は、顧客がリーグやクラブのサイトで、どんな情報に頻繫にアクセスしているかを分析することによって、そのファンがクラブのファンなのか、それとも特定の選手のファンなのかが分かるようになったりします。もし、ある選手の情報に頻繫にアクセスしているファンが分かれば、その人には選手の情報やメッセージを発信するのが効果的かもしれません。

いずれにしても、顧客を可視化することで、さまざまなプロモーションやマーケティングの可能性が大きく広がります。

―最後に、今後の課題や目標について教えてください。

2015年からのデジタル戦略によって、リーグも各クラブも、整備された"グラウンド"で勝負できるだけの準備はできたと思います。

もちろん、いま以上に使いやすいシステムやサービスを追求して、"グラウンドの進化"は今後も続けていく必要がありますが、これからはJリーグだけでなく、サッカー日本代表のチケットを購入したことのある方はもちろん、小学生から大人までさまざまサッカーを競技としてプレーされている方のデータなどJリーグ以外の組織との連携も探っていきたいと考えています。

その上で、とにかくJリーグの試合を観にきてくれたお客様に、忘れられない「観戦体験」を提供し続けていくことが何よりも大切だと思います。そのためには、お客様のことをもっと知る必要があると思いますし、いままで以上にデジタル技術の活用を推進することが大切になるでしょう。

―なるほど。本日はありがとうございました。

(了)


出井 宏明(でい ひろあき)
1988年に横浜国立大学機械工学科を卒業後、株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。人事、営業を経て人材関連事業や住宅関連事業において商品企画、 事業開発などに従事。2013年7月 公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に入社し、事業、マーケティング、国際関連領域を担当。2018年4月に株式会社Jリーグデジタルの代表取締役社長に就任。

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