HOME マーケ 観戦体験の価値を高めるJリーグの新たなデジタル戦略 株式会社 Jリーグデジタル 代表取締役 社長執行役員 出井 宏明
2018.11.16

観戦体験の価値を高めるJリーグの新たなデジタル戦略 株式会社 Jリーグデジタル 代表取締役 社長執行役員 出井 宏明

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株式会社 Jリーグデジタル 代表取締役 社長執行役員 出井 宏明


1993年にスタートして今年でちょうど25周年を迎えた「Jリーグ」。現在では、J1からJ3まで54ものクラブが所属し、年間延べ1,000万人を超えるファンが来場する巨大なリーグへと成長を遂げました。しかし近年、スタジアムへの来場者数の伸び悩み、ファンの高齢化など、さまざまな課題を抱えていました。そうした状況を改善するため、次なる成長戦略の柱としてスマートフォンをはじめとした「デジタル技術の活用推進」を大きなテーマに掲げて、改革を進めています。その最前線における取り組みについて、株式会社 Jリーグデジタル の代表を務める出井氏にお話を伺いました。

 

Jリーグの仕事に携わるきっかけ

 

―出井さんは1998年から約20年間、リクルート社にお勤めでしたが、そこからJリーグに関わるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

いや、まったく“たまたま”なんですよ(笑)。
そもそも、私は理系出身で、リクルートに入社したのも当時リクルートが強化していた通信とかコンピュータ関連の仕事がしたかったからなんですが、なぜか最初は人事部に配属されて…。その後も求人広告や研修などの営業を担当するなど、最初の10年間はデジタルコンテンツにはあまり関係がない仕事をしていました。しかし、その後の10年間で営業から商品企画や事業戦略を担当するようになると、ちょうど時代が紙媒体などのアナログメディアから、インターネットなどのデジタルメディアに移行する時期と重なったこともあり、転職・求人サイト「リクナビNEXT」の前身となるサービスの立ち上げや、不動産ポータルサイト「SUUMO(スーモ)」など、デジタルコンテンツを使ったビジネスに携わるようになったんです。

 

―そこまでは全くサッカーと関係ありませんね。

そうなんです(笑)。ただ、サッカーは小学生の頃からやっていて、もともと好きだったんです。社会人になってからも東京都の社会人3~4部リーグで選手として試合に出たり、プライベートではサッカーに親しんでいました。内心、定年後にボランティアでもいいのでサッカーに関わることがしたいと、漠然と考えてはいましたが、まさか自分がこんな形でサッカーに関わる仕事に就くなんて、夢にも思っていませんでした。

 

―不思議な“ご縁”を感じますね。

そうですね。リクルートは、社員が30歳を超えたあたりから、どんどんと会社を卒業して自分のやりたい仕事を始める人が多い会社で、自分も次に何をしようかと考えていたのですが、そんなとき、たまたまJリーグの事業部マネージャーの求人情報の紹介をもらい、ダメモトで応募したら、なぜか採用されまして(笑)。
本当に“たまたま”としか言いようがないのですが、何か“縁”があったということでしょうか。

 

 

Jリーグデジタル設立の目的

 

―出井さんが代表を務める「株式会社Jリーグデジタル」についてご紹介いただけますか?

Jリーグデジタルは、Jリーグに関するデジタルコンテンツや中継映像制作を担う会社として2017年1月に設立された会社です。現在は、公式サイトなどのオウンドメディアの企画・開発・運用や、アプリやSNS、YouTubeなどのデジタルメディアを活用したマーケティングを行う「コミュニケーション推進部」と、デジタルプラットフォームの企画・開発・運用やクラブ集客支援を行う「プラットフォーム戦略部」、ECの利用促進・収益拡大に取り組む「EC推進部」の3部門で構成されています。

 

―新会社の設立にはどのような背景があったのですか?

1993年にスタートしたJリーグは、観客動員や人気などの面でも順調に成長してきましたが、正直なところ、ここ数年は伸び悩んでいる時期があり、その状況を打破するための新たな成長戦略として「デジタル技術の活用」を大きなテーマとして掲げてきました。たとえば、最近、大きな話題となった「DAZN(ダゾーン)」によるストリーミング配信もこの戦略の一環です。
Jリーグデジタルが発足したのも、従来のテレビ中心のメディア戦略を転換し、スマホなどを使ったデジタル戦略へと方向転換することで、新たな顧客を開拓し、現状の頭打ち状態を打開していくためです。

 

―現在は何名の方が働いていらっしゃるのですか?

Jリーグデジタルの社員が15名程度、その他に楽天などのパートナー企業から出向で来てもらっている人や、外部の開発スタッフで常駐する人などが15名程度ですが、仕事量が増えるとともに、どんどん人員も増えている状態です。
みんな一芸に秀でたプロフェッショナルばかりで、なかなか面白い職場ですよ(笑)。

 

デジタル化を大きく前進させた「キャプテン翼」企画

 

―Jリーグで実際に仕事をされてみて、いかがでしたか?

私がリクルートを退社して、Jリーグの競技事業統括部の事業部マネージャーの職に就いたのが2013年7月、それからすでに5年の月日が経ちますが、最初の2~3年は、協賛事業やリーグやクラブの協賛事業や商品化事業などに関わる各種規制の見直しの仕事や、リーグのオウンドメディアである公式サイトのリニューアルなどに取り組んでいるうちに、あっという間に過ぎたという感じでしたね。
その後、2015年頃になってようやく現在、重点戦略の一つとなっている “デジタル化”への取り組みが本格的にスタートしました。

 

―最初は苦労されたのですか?

そうですね。Jリーグもすでに25年の歴史があって、従来から積み上げられてきたシステムがあり、それをいきなり壊して更地にするわけにもいきません。それに、所属するクラブチームごとにお客様のデータの管理もバラバラだったので、最初はかなり苦労しました。
しかし、私はもともと、何かをイチから始めるということだけでなく、やりたいことは見えていても、その手段が分からないといった“踊り場”にある組織をブレイクスルーさせることにも関心があったので、やりがいを強く感じました。
それに、リクルート在籍時に、求人誌という紙のアナログ媒体だったものから、求人サイトというデジタル媒体へ劇的に移行したときを経験していたので、何をどうすればよいか、その大きな方向性については分かっていたつもりです。

 

―デジタル化を推進する上で、きっかけとなるようなことはあったのですか?

Jリーグの中で、デジタルコンテンツの可能性が大きくクローズアップされたのは、間違いなく2014年に実施した漫画「キャプテン翼」の名シーンをプロ選手が実演する動画シリーズの企画からですね。これは公開されるやいなや、すぐに大きな評判となり、中には視聴回数が900万回を超える人気の動画も出てくるなど、一部ではこの企画が「Jリーグを救った」と言われるほど話題となりました。リーグやクラブの関係者の多くが、これからの時代はデジタルコンテンツが重要だと認知されたのではないでしょうか。これを機に、動画活用のチャレンジやSNSもFacebookから、TwitterやInstagram、YouTube、LINEなども積極的に展開するようになり、公式サイトもどんどん変わっていきました。

 

 

デジタルプラットフォームという“グラウンド”の整備

 

―2015年頃から本格的にデジタル戦略を推進する上で、最初の課題はどんな点でしたか?

まず、最初に考えなければならなかったのは、一元化された顧客のデータベースを整備することでした。それまで、顧客管理についてはリーグやクラブごとにバラバラで行っていました。そのため、リーグとしては「シーズンチケット購入者」や「ファンクラブ会員」など、特定の顧客しかデータを捕捉できていない状況だったんです。しかも、そのデータは一元管理されていないクラブも多く、2種のデータベースに登録されている顧客がどちらかで登録内容を変更した場合も、片方のデータベースには反映されないケースもありました。

 

―それは、改善が必要ですね。

とにかく、顧客のことが分からないと、何かを改善しようにもその指針がないわけですからどうしようもない。サッカーにたとえるなら、戦うためのベースとなるグラウンドがきちんと整備されていない状態です。なので、まずはきちんと一元化された顧客データベースを作り、それに基づいてさまざまな情報やサービスを発信できるデジタルプラットフォームを構築しようと動き出したのがちょうど2015年のことです。

 

―データベースを整備する上で苦労されたことは?

やはり難しかったのは、既存のデータベースにある情報を新しいデータベースに移し替えないといけないということです。従来までは、各クラブにおける会員組織やチケット購入者、シーズンチケット、グッズ販売、来場者などの顧客管理はバラバラに行われていたので、それらをどう新しいデータベースに移行するかが問題でした。
ちなみに、2016年に発足したプロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE(Bリーグ)」も、デジタル戦略については私たちJリーグと似たコンセプトだと思っていますが、B.LEAGUEは従来の2つの団体を一度スクラップして、ゼロから新たにシステムを構築しているので、Jリーグと違って、戦略の推進も新しいシステムの導入スピードも速い。外から見ていて、羨ましくて仕方ありませんでした(笑)。

 

―ちなみに、新しいデータベースはスクラッチで開発されたのですか?

基幹となるデータベースはスクラッチで開発し、その置き場所はクラウドを活用しています。そして、チケットシステムやアプリなどの付随するツールやサービスについては、さまざまなパッケージを組み合わせたり、パートナー企業の仕組みを提供いただいて構築しています。というのも、その時代において最も良いものをビルトインして、時間とともにそれらが陳腐化したら入れ替えられるような柔軟な設計コンセプトのシステムにしたかったからです。ですから、スクラッチで作りこむ部分はできるだけ少なくして、各クラブにとってもデータベースを活用しやすいような設計思想を意識しています。

 

―新しいデータベースへの移行は、Jリーグ所属の全クラブが対象だったのですか?

もちろん、所属するすべてのクラブに使っていただけるものですが、決して導入を強制するものではありません。あくまで気に入ってもらったクラブに使っていただくというスタンスです。
そのため、単にシステムを構築するだけでなく、各チームをまわってシステム導入のメリットを伝え、少しずつ導入いただけるクラブを増やしていきました。現状では54クラブ中の約90%のチームに活用していただいています。

 

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