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2017.11.7

「音楽ストリーミングサービスSpotify 音楽のストリーミング配信は日本の音楽市場を席巻するか?」スポティファイジャパン 小林哲男さん

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世界で1億4000万人以上のユーザーを抱える、世界最大手の音楽ストリーミング配信サービスSpotify。2016年9月にエントリー制で、同年11月より本格的に日本でサービスを開始。今後いかにしてストリーミング配信を普及させていくのか。その戦略と広告展開について聞いた。

※本記事は2017年9月発売のSynapseに掲載されたものです

 

スポティファイジャパン
ビジネスマーケティングマネージャー
小林哲男

1998年に大学卒業後、Apple、Google、Twitterを経て2016年、Spotifyのサービス開始にあわせて入社。これまで培った広告営業経験を活かし、オーディオアドのアプローチを行う

 


ストリーミング配信サービスの新たなビジネスモデルとは

 

─ Spotifyのサービスメニューと、ビジネスモデルについて教えてください。

「Spotifyのサービスは、月額980円のプレミアムプランと無料のフリープランに分かれています。いずれもフルの楽曲を4000万曲以上、聴き放題で楽しんでいただけます。プレミアムだとさらに高音質で聴けたり、好きなトラックをいつでも好きな順番に再生できたり、オフラインでも聴けたりと、いろいろな付加価値機能を提供しています。

それに対してフリーは、楽曲の途中に広告が差し込まれます。つまりプレミアムユーザーへの課金モデルと、フリーユーザーへの広告収入モデルの2つを組み合わせたビジネスモデルで成り立っています。日本では音楽ストリーミングサービスが始まったばかりなので、まだまだ様子見の広告主やアーティストもいますが、海外で音楽消費の主流であるこの文化を日本でも根付かせてマネタイズしていきたいと思っています」

 

─ まず、広告主のメリットについて教えてください
「ブランドセーフティーであることです。プロのミュージシャンやレーベルの方が権利処理をした楽曲をアップロードし、優良なコンテンツをユーザーが聴いています。ブランド広告主にとって非常に安心できる環境の中で広告を展開してもらえることが最大のメリットです。音楽番組をスポンサードしているのと、さして変わらないイメージと言えるでしょう。

また、このサービスを利用するにはログインが必要なので、性別や年齢などを正確に把握でき、ゆえに狙っているターゲット層に広告を配信することができます。アプリの操作時にバナー広告が出せるので、確実に見てもらえますし、何より音声広告の場合は最後までちゃんと聴いてもらえます。

ビューアビリティが担保されているので、伝えたいメッセージをきちんと届けられるのです。ユーザーとコミュニケーションするチャンスがあることを広告主に理解してもらって、どのようにオーディオアドを活用していくかを、一緒に考えながらいろんな展開を仕掛けているところです」

 

─ 広告メニューには、どのようなラインナップがあるのでしょうか?

「大きくは、音声、動画、バナー(ディスプレイ)に分けられます。音声は10秒、15秒、30秒など尺はいろいろあります。皆さんこれまでのラジオ広告での経験や慣習もあるかと思いますが、Spotifyの世界観をふまえた形での広告作りをお願いしています。

たとえば『Spotifyをお聴きのみなさんに』と言ってもいいし、『次の曲に行く前に』という言葉を挟むと、単なる広告ではなく、DJ的なニュアンスも出て、自然な形でメッセージを伝えることができます」

 

─ そのほうがCMタイムみたいにならず、ユーザーからも自然に受け入れてもらえそうですね。

「Spotifyは広告も1つのコンテンツになり得るプラットフォームなので、ここでどのようにユーザーとコミュニケーションをとっていくのか、あらためて考えてもらう必要があると考えています。また、今までのオーディオアドはサイトに誘導したいときにはURLを言葉で伝えていました。でもデジタルならコンパニオンバナーが表示できるので、バナーをクリックしてもらうだけで済みます。

しかもどれだけのユーザーをサイト誘導できたかも数字で出てきます。これまでの広告とはいろいろな違いがあるので、そこを理解してもらうべく、広告作りをサポートしています」

 

─ 楽曲を提供するアーティストの収益についてはいかがでしょう?

「アーティストにはプレミアムプランのユーザーによるサブスクリプションと、フリープランの広告から、再生回数に応じて収入が入ってきます。フリーユーザーの視聴でも収益が得られるビジネスモデルがあるというのが、『フリーミアム』モデルの特徴です。

フリーユーザーも無料で楽曲がフルに聴け、良いと思った曲は簡単にシェアできるようになっているので、どんどん拡散されて、楽曲を多くの方に知ってもらえるという効果が見込めます。これにより、今までとは異なるユーザー層に音楽を届けることができ、その中からまたコアファンが生まれる、アーティストにとって有効な新プロモーションプラットフォームだと思います」

 

Spotifyを訪れたアーティストのサインが並ぶ

 

日本におけるオーディオメディアやオーディオアドの可能性は

 

─ 音楽への嗜好性が特定の層に広告を出したいというような要望は、広告主から出てきていますか?

「海外のSpotifyでは、音楽のジャンルやどういった状態で音楽を聴いているかなどでもターゲティングできます。たとえばプレイリストの中にジョギング系やワークアウト系があるのですが、それらのジャンルの曲を聴いている人に、スポーツ飲料水系やスポーツ系のアパレルなどの広告を当てています。

ちょうど走っている人であれば、普通に広告を打った場合よりも、そのドリンクが飲みたくなる可能性が高いと思われます。そのようなモーメントをターゲティングするような広告展開を、海外ではすでに行っています」

 

─ そのようなモーメント起点のマーケティングは、いずれ日本にも導入されていくのでしょうか?

「今後日本におけるユーザーデータがどんどん貯まっていけば、我々も提供していきたいと考えています。どういう心理のときにどのような音楽ジャンルを聴き、その音楽のテンポはどれくらいなのかなど、いろいろなメタデータを現在我々の中で蓄えつつあります。ユーザーに聴いてもらえれば聴いてもらえるほど、その好みを反映した最適な音楽を提供することができます。

Spotifyが海外で人気のサービスになっている大きな特徴は、このレコメンデーションが優れていること。機械学習で好みの楽曲のデータを蓄積させ、その人好みの曲を提案してくれます。その中にはメジャーもあれば、海外インディーズもあります。様々なビッグデータから最適な音楽を提供するので、ユーザーには好意的に受け入れられています。

しかも機械学習だけでなく、音楽好きのキュレーターがまとめた気分やシーンに応じた多様なプレイリストもあわせて提供しています。機械と人のハイブリッドなキュレーション力もSpotifyの魅力ではないでしょうか」

 

─ 機械学習のアルゴリズムは全世界共通ですか?

「ええ、キュレーターは現地の人がそれぞれの国で文化に合ったものをまとめていますが、機械学習のレコメンデーションはグローバル共通で提供しています。そこには世界中の知見が貯まるので、いろいろな音楽の趣味嗜好がミックスされたものが提案されます。新しいアーティストがそのアルゴリズムにのっかると、日本のアーティストであっても、違う国で適切なユーザーに対しレコメンドされ、再生回数が跳ね上がっていくということも生まれてきます。

要は、インディーズのアーティストでも、世界でいきなりスターダムにのし上がるチャンスが生まれてくるのです。実際に日本人エレクトロデュオの『AmPm(アムパム)』というアーティストが、2017年4月にリリースしたデビューシングルをUSのキュレーターが気に入って、アメリカのプレイリストに入れたところ、世界中にリスナーが広がり、リリースから数ヵ月で650万回再生を達成しました。このように海外で先にヒットする事例が、今後どんどん出てくると思います」

 

 

─ 日本におけるオーディオメディア、オーディオアドの可能性についてどのようにお考えでしょうか?

「Spotifyの日本法人立ち上げから、サービス開始までに3~4年かかっています。邦楽アーティストの楽曲も増え、徐々に理解が深まってきていると実感しています。フリーユーザーへの楽曲の提供でも利益が得られるので、マイナスにはならないということをより広く業界関係者にご理解いただくべく取り組んでいます。『フリーミアム』はSpotifyが持ち込んだ新しいビジネスモデルといえますので、しっかり丁寧に啓発を続けていこうと思います」

 

─ 一方で、ユーザーにサービスを浸透させていくのも大事な仕事の1つですね。

「今はレコメンドが優れたストリーミングサービスであることをPRしているところです。またミニライブを行うなど熱心な音楽好きにアプローチして、ファンのコミュニティを活性化させていきたいです」

 

 

将来的には生活に音楽が寄り添っている状態にしたい

 

 

音声AIアシスタントの普及とストリーミングの関係とは

 

─ すでにストリーミング配信サービスが普及している国の中で、日本の今の音楽マーケットに近いところはありますか?

「すでにSpotifyが普及している国の中では、ドイツが近いかもしれません。ドイツは世界で4番目に大きい音楽市場。CDの売り上げは下がり続けていましたが、Spotifyがサービスを開始して以来、音楽市場全体が成長基調に転化しました。単に音楽消費がフィジカルからデジタルに移行しただけでなく、ストリーミングになって音楽が聴きやすい環境になり、音楽との接触機会や需要自体が広がっているのです」

 

─ 日本もドイツの後を追うのでしょうか?

「近年日本にも音声メディア以外に様々な新しいテクノロジーやメディアが海外から入ってきていますが、いずれも日本市場にフィットするまでには時間がかかり、グローバルトレンドから5?10年遅れることはよくあります。とはいえ、海外で普及したトレンドは日本にも確実に広がってきます。音楽ストリーミングもこれ然りと考えており、この流れ自体を止めることはできないだろうと感じます。

タイミングの問題だけですね。アーティストをはじめとしたコンテンツ提供者は、その潮目を見ながらうまくストリーミングを活用してほしいと思います。この5月に日本の人気ロックバンド『ONE OK ROCK』が、Spotifyの累計再生回数で、国内アーティストとして初めて1億回を突破しました。

海外のSpotifyでは彼らの楽曲を配信していましたが、日本でサービスが始まるや、日本のみならずアメリカなど海外でもその再生回数が急増しました。このような成功ケースが生まれてくると、どんどん加速していくでしょうね」

 

─ 海外ではストリーミングの普及で音楽市場が拡大しているようですが、ユーザーはどういった時間帯で音楽を聴いているのでしょう?

「音楽は目を使わず耳だけでいいので、他の視覚的なメディアとのカニバリが少なく、併用することができます。サービスがよく利用されている時間帯は、調査によると朝夕の通勤時間。これまでと同じようにニュースやSNSを見ていても、同時に耳で音楽を楽しむことができます。スマホはお風呂やトイレ、ベッドでも利用されます。

まさに、おはようからおやすみまでずっと使われているデバイスなので、ここで音楽が提供されると、利用してもらえるシーンは多くなります。ジョギングするときにも音楽は聴いてもらえますし、新しく音楽に接触してもらえるチャンスは限りなくありますよね。広告主にしても、幅広いユーザーに提案できる新しいチャンスが生まれます」

 

─ 『Amazon Echo』や『Google Home』など、家庭用の音声AIアシスタントの今後の浸透と、それによる影響をどのようにお考えですか。

「日本でもこれから音声スピーカーが発売される予定ですが、我々からすると、日常生活の中で手軽に音楽を聴いてもらえるチャンスが広がるので、こういったデバイスの普及は喜ばしいことです。Spotifyのサービスは、他の機器との連動に優れていることもメリットの1つ。スマホやタブレット、パソコンはもちろん、カーオーディオやプレイステーション、テレビ、スピーカーなど、様々なデバイスで、音楽が途切れずに聴ける状態をすぐに作ることができます」

 

─ 御社の今後の目標についてお聞かせください。

「我々の理想は、生活の中で常に音楽が寄り添っている状態を作ることです。通常の音楽ストリーミング配信は定額料金というハードルがありますが、Spotifyは無料でも楽しめるので、トライアルのための敷居もありません。

邦楽の中にはまだストリーミングに開放していない楽曲もありますが、今後急速に増えてくると思います。Spotifyではレコメンデーションなどを通じて、国境などの垣根なく音楽を聴いてもらえます。日本の人口は1億人強ですが、世界には70億人以上の人口があります。我々のサービスをうまく利用して、新たなビジネスチャンスを開拓していただきたいと思っています」

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