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2017.11.1

おいしいDMP 「DMPを活用して、 オーディエンスデータのマネタイズに挑む」ぴあ 市川雅仁さん

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※本記事は2017年9月発売のSynapseに掲載されたものです。

ぴあ
市川雅仁

『TVぴあ』編集長、『ウレぴあ総研』編集長を歴任。デジタルビジネス推進局データマーケティンググループグループ長として、メディア側からSSPに携わるとともに、DMPの導入およびソリューションの構築を指揮した。

メディアとEC両方の顔を持つぴあが、会員情報× 嗜好性をベースにしたDMPを始動。チケットを買ってイベントへ足を運ぶアクティブなユーザー情報を元に、イベント協賛企業や興行主へのソリューションを提供し始めた。PIA DMP、その誕生の軌跡とは。

 


会員、購買、メディア接触、3情報が揃った貴重なファーストパーティーデータ

 

─PIA DMPの概要を教えてください。

「ひと言でいえば、約1700万人いるチケットぴあ会員が、チケットサービスを利用したり、ぴあのメディアに接触したりしている行動データをもとにした統合データ・マーケティング・プラットフォームです。チケットぴあの会員情報とチケットの購買情報、どのようにチケット購買をしたかという購入プロセス情報、ぴあが運営している情報メディアでの接触行動から把握できる嗜好性データなどに加えて、

チケット購買後に実際に会場に行ったという行動データやその会場の地理的データなども含めて、様々なセグメントを作成して、広告やマーケティングに活用いただけます。数あるDMPの中でも、詳細な会員情報と購買情報とメディア接触情報の3種のデータがファーストパーティーで揃っていて、しかも嗜好性と実際の行動データまでがこれだけの規模で把握できているところは、なかなかないと思います」

 

─ チケットぴあのサイト自体に、メディアとしての側面とECとしての側面、両方がありますよね。

「その通りです。かつ、チケットぴあにアクセスするユーザーは、チケットを購入するという目的があるので、ログインした状態でサイトを利用することが多いというのが最大の強みです。ログイン率が非常に高いんですよね。この状態でCookieが保持されていれば、会員データと購買および購入プロセスやメディア接触が確実に紐付いた、精度の高い嗜好性データが蓄積していけるのです。

しかも彼らは安くはないチケット代を支払って、実際にエリアもキャパシティも限られた会場に足を運ぶ、広告・マーケティングの観点から見れば、非常にアクティブで、関与度の高い、とても貴重なオーディエンスデータになるのです。仮に、Cookieでつなぎあわせたユーザーデータから、あるセグメントのプロフィールを分析したとします。データ的には確かに間違っていないのですが、本当にそんな人が実在するのかどうか、ちょっとイメージしづらいですよね?

でも、当社のデータで生成されたセグメントは、イベント会場に行けば実際にそこにいる人たち。つまり顔の見えるオーディエンスなんです。だから特定ターゲットをセグメント化するときも、その顔を具体的にイメージしやすいのです」

 

─ PIA DMP構想はいつからあったのですか?

「僕は入社以来ずっと『TVぴあ』の編集部に所属し、2008年から2年間は編集長をやっていました。編集長になるといろんなコンサートやイベントに取材や招待をされたのですが、今振り返ればその会場に来ているファンを見ながら、『チケットぴあって、この人たちをユーザーとして抱えているんだよな』とぼんやり考えていたのがそもそもの始まりだったかもしれません。

アーティストごとにファンの属性やファッションなんかも全然違って、純粋におもしろいなぁと。といっても当時はあくまでも雑誌の読者として彼らを見ていて、誌面作りの参考にしようとしていただけなのですが(笑)。とにかくその頃からファンの嗜好性は常に意識していました。その後、徐々にデジタルに関わっていくようになりました。

2011年に『ウレぴあ総研』の編集長と兼務でアドテクに関わる部署に配属になって、自社メディアのSSPなどを担当していましたが、2013年に大手広告代理店出身の上司が局長としてやってきました。その上司にチケットぴあのオーディエンスデータはうちにとって大きな武器になるという考えを話したところ、彼も同じ課題意識を持って当社に来たことがわかって、そこからDMPへと話が広がっていきました」

 

─ DMP立ち上げのプロジェクトは、具体的にはどのように進行していったのでしょうか?

「最初に上司と話したのは、〝チケットぴあのデータは時間軸を持っている〟ということでした。ユーザーからしたらチケットを買って、当日のイベントがあって終わりですが、当社はそのあともコミュニケーションができる。チケットぴあとしても、それまではECサイトの視点で、チケットを買ってもらって終わりでしたが、僕はむしろチケットを買ってもらったあとからがスタートだと思っていて。

ただその部分は、ビジネスにできていなかった。上司と話したのは、これからはチケットを買ってもらうだけでなく、買ってもらったあとのデータも当社の新しい武器にしたいということ。それを生かせるのは広告・マーケティングの領域だろうということで、どういうデータを蓄積し、どうビジネスにしていくかという構想を、時間をかけて練ってきました」

 

 

新規顧客の開拓に生かせるDMPがライバルに対する強力な武器になる

 

─ 2013年から構想し始めて、実際にDMPを実装されたのは、いつ頃のことですか?

「2015年です。約1年間をかけて導入からデータの蓄積までを行いました。構想から運用を開始するまでに多くの時間をかけたのには理由があります。実は前に1度、チケットぴあにDMPを実装しようと働きかけたものの、頓挫してしまったことがあるのです。

そのときはDMPをチケットぴあのCRMに活用することを考えていたのですが、チケットぴあの開発チームにはCRMだけが目的だとコストが見合わないと判断されました。そこでDMPを導入するならCRMにも活用しつつ、さらに企業へのソリューションとしても使えるものにしないとダメだと気づきました」

 

─ その気づきの内容を、もう少し詳しく聞かせていただけますか。

「チケットぴあでは、これまでに蓄積された購買履歴データから、どんなユーザーがどんなチケットを買ってくれそうか、DMPを実装する前からすでにわかっていました。ただ、これまではタッチポイントの多くがメール配信によるものでした。

メールで情報を送っても、開封されなければ終わりです。しかもメールはそんなに頻繁には打てませんから、買っていただけるかどうかはほとんど一発勝負になります。でも、DMPをもとにDSPで広告出稿する仕組みを導入すれば、出す回数や出す先も制御できます。メール一本槍ではなく、お客さんがネットの世界で見ている場所に確実に出せるようになるわけです」

 

 

─ 御社にチケットを販売委託する企業から見れば立派なソリューションですね。

「おっしゃる通りです。チケットぴあのビジネスは興行主からチケットを委託されることで成り立っていますが、同じくチケットの委託販売を行うライバルのサービスもそれぞれに強みを持っていて競争が激しく、営業部門にいる同期からはよく『ぴあにしかない武器を持ちたい』という話を聞かされていました。先ほどのようなDMPによってDSPの広告出稿までの仕組みを構築できれば、大きな武器になります。

実は興行主側の考え方もここ2~3年で大きく変わってきていて、これまでの既存顧客と近いところでチケットが売れればいいというものから、いかに新規顧客を開拓できるかが重視されるようになってきている。まさにDMPが役立つ世界だなと考えました」

 

─ 御社の購買履歴やそこから見えてくる嗜好性などを活用すれば、興行主にとっての新規顧客も見つけやすそうですね。

「そうなんです。新規顧客って意外に近くにいるはずなんです。たとえばJリーグの試合を、1度もスポーツ観戦の経験がない人にアピールするより、スポーツ観戦の経験はあるけど、Jリーグ観戦は未経験という人にアピールする方が、ハードルは低いはずですよね。実は当社のロイヤルユーザー、つまりいろんなイベントにチケットを買って足を運んでいる人の分析結果からも、同じような結果が出ているんです。

年間何十万円もチケット代を支払っているユーザーは、何か1つのジャンルだけにお金を使っているのではなく、いろいろなジャンルのイベントに参加しているのです。そんなふうにアクティブで新しいエンタメを求めている人にスポットをあてれば、見込み客を増やすことになりますよね。しかもDMPでは、チケットを委託してもらえればもらえるほど、データが貯まりやすくなる側面があるので、そのためにも『当社に委託して新規顧客を掘り起こしませんか?』と提案できる。興行主から見れば、それがソリューションになるのです」

 

PV数によって決まるマネタイズの上限を突破するためにDMPを活用した

 

─ 御社サイトのオーディエンスデータでマネタイズしようという発想はいつ頃着想したのですか?

「先ほどお話しした『ウレぴあ総研』の編集長の経験を通して、メディアをマネタイズ化していくのに武器が欲しいなという思いを抱えるようになっていました。ただ、チケットぴあの単純なメディアパワーだけだと、収益はPVに応じた上限額に決まってしまいます。そこで、DMPを元にDSPで外部に配信できる仕組みを作れば、マネタイズの上限を突破できると考えました。

そういう流れもあったので、DMP実装の社内稟議を通すときは、CRM中心での活用というよりは、チケットぴあのオーディエンスデータを使った広告収益の拡大を軸としました。稟議を通すのは簡単にはいきませんでしたが、上司も力になってくれて、なんとか進めることができました」

 

─ DMPの導入はトップダウンでやるか部内のスモールスタートで実績を作ってからじゃないと浸透しないという話もよく聞きます。

「うちはスモールスタートのパターンですね。チケットぴあに実装する前に、自分が担当するWEBメディアを使ってテストしました。そのテストを踏まえたうえで、チケットぴあへ実装するにあたって大切にしたのは、ユーザーがチケットぴあのサイトに接触しているのが、購入プロセスのどのタイミングなのかを把握しようということ。購入前の接触データなのか、購入後の接触データなのかを細かく見られるようにしました。

というのも、そもそも1組のアーティストに対して、UU(ユニーク・ユーザー)が何百万もいるわけがないんです。どんな人気アーティストでもファンが数千万人もいるということはありませんから、UUに至ってはそれ以下ということになります。その一方で、広告を打ってビジネスにしていくにはある程度のUUが必要です。

たとえば今まではチケットを買ってくれればよかったので、購入完了時のデータしかとっていなかったんですが、それだと委託枚数が数字の上限になります。1万枚の委託なら、1万UU止まり。しかしアクセス数は何十万人も来ている。この見込み客層となり得るボリュームを大事にしないといけないと考えました」

 

アクティビティが高くて嗜好性や属性も把握できるのはエンタメ分野では貴重

 

─ 2015年の実装から、今年の本格的なサービス提供開始までの道のりはどのようなものでしたか?

「2016年の春に実装が終わり、データの蓄積に3~4ヵ月かかり、その後いくつかの広告主にテスト的にやってみませんかとアプローチしていきました。まだそのときは現在の基本セグメントすら準備できておらず、広告主の求めに応じてカスタムセグメントを作成したり、という試験運転のような感じでした。

そのときに広告主の方々に言われたのが、『○○が好きな30代』のように、エンタメ分野で嗜好性と属性を掛け合わせたセグメントはあまりなかったので、ありがたいという話でした。特にイベントに足を運ぶユーザーは、アクティビティが高いので、その点も喜ばれました。
最初はそんな感じで試験的にスタートし、今年から説明を聞きたいという声を多くいただくようになりました。

そこでちゃんとセールスシートも作り、PIA DMPの正式提供開始をプレスリリースしました。あわせて、汎用性のあるセグメントも用意し、広告主にとっての新規顧客を開拓するには最初からセグメントを絞り込まず、はじめは広くとって徐々に絞り込む方がいいということもわかってきました。また、データ分析のニーズもありそうでしたので、『Caleido』という分析を含む新しいサービスも用意しました」

 

─ DMPの活用では、データ分析で苦労する企業も多いようですが、御社はどうですか?

「当社には、チケットぴあの購買データを分析して販促に活用したり、市場調査を行い『ライブ・エンタテインメント白書』というレポートを作成するアナリストチームがあるので、そこが一緒に担当します。当時そのチームも僕の上司が兼務で見ていたので、僕の部署と連携がしやすくてラッキーでした」

 

今後の課題はリアルな行動データをどう収集し、DMPに反映するか

 

─ 御社はファーストパーティーデータが非常に充実していることはよくわかったのですが、サードパーティーデータの活用についてはどうお考えですか?

「まずはサードパーティー主体ではなく、セカンドパーティーデータ、つまり他企業のデータを当社のデータとシンクロさせる方法があると思っています。たとえば飲料メーカーの持っているデータとうちのデータを掛け合わせて、どんな嗜好の人がどんなドリンクを飲んでいるのかをきちんと数値化し、今は肌感で行っているイベント協賛等に生かす、という使い方です。

実際にそういう座組ができないかという、ご相談もいただいていますしね。今、フェスなどは協賛してくれる企業を探すのも大変です。協賛する効果を可視化できないと、協賛企業の担当者も社内説明ができないので、可視化は必須の時代に入ってきているということですね」

 

──そういう視点でみると、いわゆるエンタメ業界だけでなく、様々な企業とコラボレーションできる可能性がありますね。

「そう思います。自治体も含めた全業種がターゲットだと考えていますし、僕の部内にインバウンド系のメディアを運営しているチームがありますが、そういうインバウンド方面にも応用できるでしょう。今後の課題は、オフラインのデータをどのような方法で取っていくかです。たとえばイベント来場者がどのブースに足を運んだのか、などです。

アンケートのようなカタチではなく、楽しみを提供しながら、結果的にデータも自然と紐付いてくるというような仕組みの構築を模索しているところです。このあたりはもちろん、当社だけではできないので、他社と一緒にやっていくことになると思います」

 

─ DMPは普及が進む一方、その成否については属人的なところが多いと聞きます。御社ではどのような創意工夫をなさったのでしょうか?

「人数がいても、誰かがやるだろうというチームではできないので、ひとりでも最後までやりきるという人が必要でしょうね。ほかの企業を見ても、DMPがうまくいっている企業には大体、そういう人がいるなぁと感じています。

あとは落とし穴がたくさんあるので、小さなことに一喜一憂しないことも、プロジェクトを推進していくうえでは大事な要素ですね。マネタイズするまでは、理解してもらえないくらいのスタンスでいたほうが、気が楽だと思います」

 

技術にとらわれず、哲学、コンセプト固めが肝要になる

 

 

─ 今後DMPの導入を検討されているメディアに、何かアドバイスはありますか?

「ひとくちにDMPと言っても部署ごと、担当業務ごとで抱える課題が違うので、どう活用すべきかも違ってきます。僕からできるアドバイスとしては、技術面にあまりとらわれないで、どういう哲学、コンセプトでDMPを導入するのか、しっかり固めることが大事だということです。

アドテクな面が注目されますが、実際にはクリエイティブの要素が強いと思います。テレビ局さんなどはデータとしてもおもしろいものをお持ちだと思うので、当社としてもぜひ、DMPを通じて関係性を深めていければうれしいですね」

 

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