動画制作から運用・配信まで
―動画を制作した後は、それをどのような形で運用・配信するかが問題になってきますよね。
そうですね。動画もただ単に作っただけでは意味がないわけで、それをどう見てもらうかが重要になります。実際に、プルークスでも動画制作だけでなく、制作した動画の運用や配信まで含めた総合的な提案を行っています。
―動画制作に加えて運用・配信までされるケースは多いのですか?
現時点では動画制作後に運用・配信業務まで行うケースはまださほど多くはないです。先ほども言いましたが、現段階では当社のクライアントは初めてデジタル動画を作るという会社がまだ多く、いきなり配信までを行うのではなく、まずはトライアルの意味で自社のWEBサイト上やYouTubeで流してみるというケースが多いですね。
ただし、やはり今後は動画制作から運用・配信までを含めてトータルに対応できる体制をもっと充実させていきたいと思っています。
―動画を配信する場合は、KPIなどの数字が具体的に結果として出るだけに、責任も大きいですよね。
確かに運用・配信まで行うとなるとなかなか大変なので、J:COMを含めた外部のパートナー企業とも緊密に連携しながら積極的に取り組んでいきたいですね。
―なるほど。そうした意味で最近これは上手くいったという事例はありますか?
最近で言えばTSUTAYAさんのケースは大成功でしたね。これは、TSUTAYAさんの「TSUTAYA DISCAS」「TSUTAYA TV」という新サービスのブランディング強化を目的に制作した動画ですが、各SNSを中心に広告配信して、再生回数120万回以上の好結果につながりました( 実際の動画はこちらから )。
動画の内容は、TSUTAYAさんの一番の特長である「日本最大のタイトル数」を訴求したもので、実際に2万枚の本物のDVDパッケージを使って人の表情を表現したものです。あえてCGは使わずに人力で作成したのですが、とにかくネットで話題になるように動画制作の舞台裏を記事化してPRしたところ、株式会社フジテレビが運営する動画メディア「ホウドウキョク」でもその様子が取り上げられて、見事に動画の拡散に成功しました。
―あえて制作現場の舞台裏の大変さを見せて話題になるよう仕掛けたのですね。
実際の作業はすごく大変だったようで(笑)。当時、担当していた弊社のプランナーやクリエイターも「こんなこと二度とできないね」と話しながら深夜まで作業していましたね(笑)。
―それは本当に大変でしたね(笑)。
ひとりの担当がプロジェクトを一括管理
―御社の社内体制はどうなっているのですか?
当社の場合、案件ごとに担当が決まっており、その担当が営業・企画・制作など、すべてを一貫して担当するシステムになっています。つまり自分でプレゼンして、受注し、データベースからクリエイターを選んでプロジェクトを進めていくスタイルです。
―そうした体制にしているのは何か理由があるのですか?
普通は営業なら営業だけという場合が多いと思います。でも、それだけだとなかなか上手くいかない。というのも、当社のクライアントは動画制作に慣れていない人が多いですし、反対にクリエイターの方もデジタル動画などの制作にまだ十分に慣れていないことも多く、両者を単純に橋渡しするだけでは上手くいかないことがあるんです。
ですから、動画の制作からプランニング、マーケティングといったプロジェクトの根本部分を熟知した上で、全体を統括する人間がどうしても必要なんです。
―担当者にかかる負担は大きいですよね。
当社の社員には営業力もないといけない、企画力もないといけない。ですから、担当者にはかなり優秀な人材が必要です。それだけに人材採用や教育という点にはいつも頭を抱えています(笑)。まあ、当社の永遠の課題ですね。
「クリエイティブを科学する」をモットーに
―プロジェクトを成功させるために意識されていることはありますか?
プルークスはもともと経営コンサルティング出身のメンバー陣が立ち上げた動画マーケティング会社ということを売りにしていて、「クリエイティブを科学する」ということをモットーにしています。ですから、動画制作においても「論理的に考えること」を常に意識しています。
―動画制作のようにクリエイティブな仕事だと「感性」や「想像力」が重視されがちです。
ですから、「何となくそう感じる」といった曖昧なことではなく、「なぜそうなるのか」を論理的に説明できることが大切なんです。動画制作の場合、“クライアントの考え”と“クリエイターの考え”では違ってくることが多々あります。そんなときに私たちが、動画制作の目的やコンセプトをきちんと論理的に説明することで、プロジェクトを正しい方向に進めることができます。
―クライアントやクリエイターを納得させるために何かツールは使われていますか?
はい、これまでプルークスが培ってきた動画制作のノウハウをまとめたコンサルティングブックを作成していて、これを使ってお客様やクリエイターとも打合せをしています。
このコンサルティングブックには、たとえばWEBサイト上にデジタル動画をアップする際にどのぐらいの尺にするのがよいかといった細かなデータが網羅されていて、それを見ればどれくらいの秒数の動画にすればよいか一目瞭然です。また、クライアントからもよく聞かれるのですが、「実写とアニメーションではどちらがいいのか」ということも、このコンサルブックできちんと両方のメリット・デメリットが解説されているので、それを見れば皆さん納得していただけます。
このように動画制作に必要な情報がまとめられているので、これに基づいて論理的に考えることで、クライアントを含むプロジェクトに参加するメンバー全員が同じ方向を向くことができます。
―なるほど。そうした客観的な情報に基づけば共通理解が得られやすいですね。
動画マーケティング市場の今後について
―動画マーケティング市場の今後についてはいかにお考えですか?
これからも動画を使ったマーケティングのニーズはまだまだ増え続けていくと思いますが、今後はより細分化されたターゲットに向けた動画制作が増えていくと思います。
場合によっては、同じ商品やサービスを紹介する動画でも、ターゲットに応じて複数のバージョンを作らなければならないということも出てくるでしょう。
―それですと、ますます動画制作の数は増えていきますよね。
ありがたいことに、どんどん増えると思います(笑)。しかし、それだけ作り手の負担が増えていくことが予想されるので、何か対策が必要です。そこで当社では現在、「動画制作が簡単にできるクラウドサービス 」の開発に取り組んでいます。こうしたツールはすでにホームページの作成などでは当たり前になっていますが、動画制作でも同じことができないかと考えています。また、このシステムをさらに使いやすいものにすることで、将来的にはクライアント自身の手で簡単に動画制作ができるようなサービスも検討していきたいですね。
―まさに誰でも簡単に動画が作れる時代が来るかもしれませんね。
いまの時代、いろいろなサービスが溢れていて、時間の取り合いになっていますが、デジタル動画のあり方もどんどん進化していくと思います。当社としては、このような時代の変化を先取りしながら、常に新しいチャレンジを続けていくことが大切だと思っています。
プルークスの今後の課題や展望について
―最後に今後の課題や展望についてお話いただけますか?
課題としては先ほどお話した自動で動画制作ができるツールの開発もそうですし、今考えているのはせっかく作った外部クリエイターのデータベースを他でも活かすことができないかということです。当社独自で制作した制作管理ツールも含めて、それを社内で活用するだけでなく、外部に提供するビジネスモデルも考えています。
―海外向けのニーズについてはいかがですか?
現時点では日本の企業による日本向けの動画が多いのですが、今後は海外向けの動画のニーズも確実に増えていくことが予想されるので、海外のクリエイターの充実も急務ですね。実際、日本の人の作品と、海外の人の作品とでは、動画のテイストやデザイン性も異なるので、海外での人材確保も大きな課題です。
―人材の教育や育成に関していかがですか?
それは一番大きな問題ですね。確かにデジタル動画の市場は新しいにもかかわらず急拡大しているので、作り手の存在が圧倒的に不足しています。現時点で当社のデータベースに登録してもらっている外部クリエイターには、その都度デジタル動画についての知識や情報を提供していますが、根本的な問題を解決するためには、若い人材を育成するためのスクールなどを作る必要があります。
黙っていても誰もそんなスクールは開いてくれないと思うので、プルークスでチャレンジするしかないですね(笑)。
―今日はお忙しい中、ありがとうございました。
(了)
株式会社 プルークス 代表取締役社長 皆木 研二(みなき けんじ)
埼玉県出身、大学在学時から人材系ベンチャー企業の経営に携わる。卒業後はデロイトトーマツに入社。1年目から経営コンサルティングを担当し、各種賞を受賞。2015年にプルークスを創業し、現在に至る。