The Great Message 「クリエイターよ、PCの電源をオフにせよ」 ハナマルキ「おかあさん」CM制作会社シマ・クリエイティブハウス 島崎保彦

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The Great Message 「クリエイターよ、PCの電源をオフにせよ」 ハナマルキ「おかあさん」CM制作会社シマ・クリエイティブハウス 島崎保彦

島崎保彦

しまざき・やすひこ/広告会社シマ・クリエイティブハウスと CM&番組制作会社トッシュの代表取締役社長。1933年生まれ。代表作にハナマルキの『おかあさん』 CFシリーズ、伊藤園『お〜いお茶』 CFシリーズを手掛けるのみならず、サンスター『スーパーカー・ショー』、堀江健一の『北極探検シリーズ』などのキャンペーンも展開。選挙参謀としても極めて有能。そして “GREAT”でありながらバリバリの現役。日々コピーを考え、文筆に勤しみ、スチールやムービーを撮影し、毎週ジャズの音楽番組をラジオで担当。週末には船で五感を研ぎ澄ます生活を展開している。

※本記事は2015年12月発売のSynapseに掲載されたものです。


気づけば温故知新。先達に学び続けてきた。

オレが会社を立ち上げてコピーを書き始めたのは31歳の時。当時昇り龍だったTBSをやめて、山田耕筰先生の事務所を引き継ぐことになったからだった。文化勲章受章のクラシック音楽の大先生で、オレは個人的にかわいがられてたんだ。音楽はもちろん、正しい日本語の話し方をみっちり教わった。というのも、先生は正調日本語の提唱者で、オレは薩摩育ちの薩摩弁の男だったからね。

……本当のことを言うと青山生まれの青山育ち、墓も青山墓地にある。鹿児島は疎開先だったんだけど、彼の地の「嘘をつくな、弱い者いじめをするな、喧嘩するなら相手が死ぬまで」という男らしさに心酔した。青山生まれって面白くないしね。

ともあれそういう経緯で、オレは山田先生の事務所を引き継ぐ形で「シマ・クリエイティブハウス」を立ち上げたんだ。社員はいない。人を雇う金はない。紙と鉛筆だけがあったので、これでメシを食うには ……よし、コピーライターだと。それで当時世界一と言われたアメリカ、シカゴのレオ・バーネットさんの下で勉強することにしたんだ。オフィスに行ったら「黙ってオレの横でやること見てろ」って。

その時、彼はアメリカ五大湖の反公害キャンペーンのコピーを書いてたんだけど、白い紙に書いては捨て、書いては捨てるんだね。オレはその様子を1日見てるだけ。それで夕方彼が帰ると、ゴミ箱の中身を全部もらって帰る。シワを伸ばして順番に並べる。と、コピーの考え方の履歴が分かるんだよ。最初こうだったのがこう変わって、次にこうなり、最終的にここに落ち着くのか ……って。そうやって学んだんだ。

日本では扇谷正造先生に新聞記事の書き方を一から教わった。朝日新聞の記者たちを震え上がらせた、通称「シゴキのギヤ」が、何故か目をかけてくれて10年にわたってみっちり指導。

後にオレが『ジャーナリズムと広告の歴史』っていうフランク・プレスベリーの本を出した時、先生が帯に書いてくれたのが「原点に立ちかえり、あすに羽搏く」という言葉。温故知新が大切だと強く教えてくれたんだ。


五感を研ぎ澄まして “ストレート ”を繰り出す。

オレが得意なのは「ラブレターと選挙」(笑)。伊集院静のラブレターの代書をしたこともあるよ。あいつ、昔うちの会社の社員で、ペンネームもオレがつけたんだ。オレはひたすら原稿用紙に「したい。したい。したい。」って書いて、 2枚目も「したい。したい。」しか書かずに、最後の一言だけ「君とだけしたい。」。ちょっと下品すぎませんか?ってあいつに言われたけど、女の子だって人間。少しでもしたい相手から「したい」って言われりゃ嬉しいよ。「私とだけしたいんだ」って伝わる。これがコピーなんだって話をした。

選挙にも関わった。 1971年の川崎市長選挙でオレ、革新系候補者の伊藤三郎さんの参謀をやったんだ。日本の広告マンとしてはパイオニアだったと思うよ。最初に見たレオ・バーネットさんのコピーが反公害のスローガンだったこともあって、「コピーは社会的意義のあるものだ」っていうところからこの世界に入ったから。反公害を謳う伊藤さんと何度もミーティングして川崎の街を実際に歩いて、それで素直に出てきたのが「雲をみたい まっ白な雲を」というコピーだった。

ラブレターと選挙が似ているのは、効果測定の結果がはっきりしてる点。結局付き合うかどうか、当選するかどうか。結果がすべてなのが面白い。

そこで大切なのは、きれいごとを並べても通用しないということ。本音でぶつからないといけない。若い男が考えてるのは「したい。」だし、反公害の理念を美辞麗句で飾り立てたってしょうがない。そのまんま、求められるものをストレートに出すのがいちばんだよ。伊藤園の「お〜いお茶」もそう。ハナマルキの「おかあさん」もそう。

鋭くて先進的だったらいいってものじゃない。生活者ってそれほどバカでも利口でもなくて、おおよそつかみどころのない “真ん中 ”にいるわけ。だからクリエイターは自分の五感をつねに研ぎ澄まして、モノ言わぬ、形もなければ色もない、空気に爪を立てるようにして彼らの心のひだが動くアイディアを出す。

今のような時代に生きていると、まずPCのスイッチを入れた瞬間に自分の脳は休止してしまう。誰かが加工した情報を得るだけ。自分から能動的に働きかける、というやり方を忘れてしまう。オレはこの40年、週末の約30時間を船で過ごしてるんだよ。土曜の夜、船で眠って日曜にセーリングに出る。そこで実感させられるんだ。

どうあがいたって自然という神は絶対に思い通りになってくれない。そのなかで自分と対話をする。「見える」のではなく自分から「見る」。「聞こえる」のではなく「聞く」、「味がする」のではなく「味わう」んだよ! 僕らクリエイターは、時々はオフィスを離れて自然のなかで孤独を自覚し、自分と語り合うべきなんだ。

コピーにするなら「クリエイターよ、PCの電源をオフにせよ」かな(笑)。オレこの間「365DAYS」ってコピー考えてさ、あるメーカーに売れたんだよ。これからたぶん歯磨きとかいろいろ商品化されると思うんだけど ……ド直球でしょ(笑)。それでいい。ね、五感を研ぎ澄ませていれば、80のジジイでもこうして現役でいられるんだよ!




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